第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『私……矛盾してるわよね。嘘が嫌いなはずなのに、お母さんには嘘をついたんだもの』 白雪ちゃんはワインのグラスを手に取り、それを口元に持っていくけど、飲まないままテーブルに置いた。 ため息を一つ、そしてこう続けたの。 『私は一国の女王で、民を守るべき立場だわ。私の首一つで自国と隣国、その両方が救えると言うのなら迷う事はなにもない。覚悟を決めて____その瞬間が訪れて、意識が途切れ、再び目を覚ますと斬られたはずの首が繋がっていた。それで……やっぱり私は死んでいて、今は幽霊なのだと理解したの。人は死ぬとこうなるのね……と驚いたけど、幽霊も悪くないと思ったわ。だってどこも痛くないし傷も治ってるんだもの。……しばらくして、天の高い所から光る道が降りてきたの。視てすぐに分かったわ、死者はこの道を進むのだと。だけど逝けなかった。最後に、どうしてもお母さんに会いたくて……だから私、お城まで全力で走ったの』 死んでも全力、か……らしいな。 民の為に命をなくした女王様。 死者となった白雪ちゃんは、自分の城まで一体どんな気持ちで走ったんだろう。 『お城に着くと中は大変な騒ぎになっていた。私のウソはとっくにバレて、お母さんは半狂乱で泣いてるし、従者達も泣きながら宥めているし……ひどい有り様だった』 無理もない……白雪ちゃんはママにとって宝物だ。 逃がしたはずの大事な娘が亡くなったと知らされたら……耐えらるはずがないよ。 『…………本当に、親不孝をしてしまった。あんなになるまで悲しませて、嘘なんかつかなければ良かったと後悔した。早く戦を終わらせたくて気持ちが焦っていたのよ。もっと話すべきだったわ。私は死んで、そのせいで愛する人が泣いているのに、謝る事も抱きしめる事も叶わない。悲しくて辛くて、なのにどうにもならなくて……お母さんの傍で泣く事しか出来なかった……嘘は人を傷付ける、つかれた方も、ついた方もよ。だから私は嘘が嫌い……ううん、怖いのかもしれないわね』 話し終えた白雪ちゃんは、さっきは飲まなかったワインを口にした。 ウチもマネして焼酎を飲む。 ウチらはテーブル越しに目を合わせ、だけどすぐに、それぞれが持つグラスに目をやった。 なんとなくの沈黙。 白雪ちゃんは……もしかして、昔を思い出してるのかな。 ウチは……バラカスの事を考えていた。
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