第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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直後、なんとも言えない空気が流れた。 それから少しの間が空いて、 『…………ソレガシーさんが、バラカス?』 白雪ちゃんは訝し気にそう聞いた。 眉間にかすかにシワを寄せ、ウチが言った意味を考えてるように視えた。 『うん、……ごめんね。ウチが今日、白雪ちゃんを待ち伏せしたのは、この事を話したかったからなんだ』 緊張する、声がだんだん小さくなっちゃう。 白雪ちゃんは何かを言いかけ、だけど黙ってワインを飲んだ。 一口、二口、喉にゴクリと流し込み、そしてグラスを置く。 『マーちゃん、言ってる意味がよく分からないわ。どうしてソレガシーさんがバラカスなの? 彼には昨日初めて会って話をしたけど、バラカスとは似ても似つかない(ひと)よ。ヒト族だからパンダの容姿と程遠いし。そもそも、ソレガシーさんはコッテコテのオタクさんなの。バラカスとはあまりに違いすぎるわ』 昨日の ”ソレガシー” を思い出しているのか、言いながら白雪ちゃんはクスクスと笑いだした。 ウチはその笑顔に少しだけホッとする。 白雪ちゃんにこんな顔をさせるくらいだ、きっと ”ソレガシー” の印象は良いんだろう。 良かった、その方が話しやすいもの。 『白雪ちゃんはソレガシーと話して楽しかった?』 ふと気になって、こんなコトを聞いてみた。 すると白雪ちゃんは、 『ええ、楽しかったわ。とても個性的な方だから最初はビックリしたの。でも彼は良い(ひと)だった。話していて面白いし、サイリウム……? の、スティックライトをプレゼントしてくれて、それがとってもキレイなの。ああ、そうだ。彼、昨日は急に帰ってしまったから、ちゃんとお礼を言っていないのよ。またどこかで会えるといいのだけど……』 と、お礼の心配をした。 ダイジョブ、いつでも会えるよ白雪ちゃん。 だってソレガシーはバラカスだもの。 『白雪ちゃんがそんな風に思ってるの知ったら、バラカスはきっと大喜びだ』 さり気なく、話を元に戻しつつ言ってみた……けど、白雪ちゃんは中々信じてくれないの。 『どうしてバラカスが喜ぶの? 言ったでしょう? バラカスとソレガシーさんは別人だって。バラカスには関係のない話よ』 あ……うん、そうだよね。 本当に別人だったら関係ない話だよ、でも。 『ううん、本当に別人じゃないの。あのね……怒らないで聞いて。バラカス、自分の霊体(からだ)を再構築したんだ。それでパンダからヒトの容姿に姿を変えたの、』 い、言っちゃった……!(ドキドキドキドキ) でも仕方がない、言わなきゃ信じてもらえないもの。 シン……と沈黙が流れた。 この静けさ……なんだかすごく落ち着かない。 ウチはソワソワ、白雪ちゃんは口を結んで真面目な顔で考え込んでいる。 …… ………… それから少しして……白雪ちゃんはやっと口を開いてくれたんだけど…… 『そう……再構築……、という事は、ソレガシーさんがバラカスと同一人物だというのは……本当なのね。そう……そっか……ふぅん……』 ウチを視ない白雪ちゃんは、目を伏せて、独り言のように呟いていた。
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