第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『……ねぇ、白雪ちゃん?』 声を、かけた。 白雪ちゃんは目を伏せたまま、視線の先はなんにもないテーブルだ。 ここの料理は手作りだから、出てくるまでに時間がかかる。 心躍るおししいゴハンはまだ来ない。 テーブルにはなにもない。 『白雪ちゃん……ごめん、急にこんな事言ったら驚くよね、あのね、違うの。バラカスね、本当に白雪ちゃんの事が好きで、それで、』 『マーちゃん』 あ……ウチ……まだ話してる途中なのに……白雪ちゃん、途中で割り込んできたよ……こんな事……長い付き合いだけど初めてだ。 『……うん、』 顔を上げた白雪ちゃんの表情は薄い。 喉が張り付く、短い返事が精一杯だ。 ウチ……間違えた? どうしよう、どうしたらいい? なんて言ったらいい……?  飲みかけのワイングラス。 白雪ちゃんは指で押してテーブルの端に追いやった、そして。 『聞いてもいいかしら、』 『……あ、うん、もちろん』 『改めて確認したいわ。 ”ソレガシー” というヒト族はバラカスであるという事で間違いないのね?』 『……うん、間違いないよ』 『そう、わかった。それで、バラカスはいつの間に再構築が出来るようになったの? 彼とはほぼ毎日一緒にいるけど、そんな話は聞いた事がないの。再構築で容姿を変えるなら、しかるべき機関で入念なカウンセリングが必要よ。申し込みから施術(しじゅつ)まで、早くても1か月はかかるはずだけど、彼がカウンセリングに通っている気配は無かった……ねぇ、マーちゃん。バラカスは正規のルート(・・・・・・)を踏んでいるのかしら、』 う……言葉に詰まる。 バラカスは正規のルート(・・・・・・)を踏んでいない。 せっかちパンダが1か月も待てるはずがない。 本当の事を言ったら、白雪ちゃんは怒るだろうな。 いっそ内緒にしようかな、でも…… 『……踏んでない』 あぁ……言っちゃった。 ウチ、また間違えたかな。 でも、嘘、つきたくなかったの。 白雪ちゃんは、ウチの答えに長いため息をついた。 それは本当に長くって、同時に顔も萎れるように下を向く。 『はぁ………………そう。それはルール違反よね』 あ……空気が変わった。 白雪ちゃんの綺麗な声が掠れてる。 まるで錆びた鈴の音みたいに。 ウチは手のひらに汗を掻いていた。 雲行きが怪しい。 ちょっと待って、変な事考えてないよね? 少しだけ言い訳させて、ウチの話を聞いて。
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