第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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菅野さんに視送られ【フェリーチェ】を後にした。 エレベーターで下に降り、高層ビルの外に出ると、夜も更けてきたというのに街はとても賑やかだった。 道行く(ひと)は誰もかれもが笑ってて、今のウチにはそれがとっても眩しく視えた。 『それじゃあマーちゃん、帰りは気を付けてね』 白雪ちゃんはそう言うとウチの頭を一撫ぜし、『今夜はココで解散よ』とも言った。 ビルの前(ここ)で解散か……いつもだったら帰る時、移動の陣まで一緒に行くのに。 だけど今夜の白雪ちゃんは、陣は使わず走って帰るのだと言った。 『今日はね、大きなトラブルがなかったの。だから1日デスクワークで霊体(からだ)がなまっちゃったんだ。だから家までランニングで帰ろうかと思って。…………ほらぁ、そんな顔しないの! マーちゃんは何も悪くないんだよ。バラカスだって……そう、きっと悪くないんだわ。悪いのは私。____でも、バラカスの再構築の件は許しちゃだめね。マーちゃん、帰ったらバラカスが泣くほど叱ってやってちょうだい。じゃあね、』 あ……待って! …… …………行っちゃった、 止める間もない素早さで『じゃあね』と言った次の瞬間、白雪ちゃんは走り出していた。 街は(ひと)で溢れているのに、器用に誰ともぶつからず、大きな背中はあっという間に小さくなっていく。 『…………ウチも、帰ろ』 誰に聞かせる訳でもない、だけど小さく呟いた。 そうでもしないと、自分にそう言わないと、いつまでたっても動けそうになかったからだ。 ウチはトボトボと歩き出した。 街はとっても賑やかで、道行く(ひと)の誰もかれもが笑ってる。 笑ってないのはウチだけだ。 足が重い、知らない(ひと)とぶつかるたびに、”ごめんなさい”、”すみません”、何度も何度も口にした。 謝りすぎて、ウチは誰に謝っているのか、本当は誰に謝りたいのか、そういうのが分からなくなっていた。 帰る為に陣へと向かう、けど……まだかな、 歩いても歩いても、移動の陣までまだ着かない。 おかしいな、こんなに遠かった? それともそう感じるだけ? 気持ちが、重いのかもしれないな。 これからウチはバラカスの家に行く。 今夜の事、白雪ちゃんの気持ち、その両方を話すために。
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