第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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移動の陣。 黄泉の国でこれを視ない日はない。 仕事に行くにも遊びに行くにも陣を使って移動する。 六芒星を丸く囲む構築式は緑色に発光し、”どこそこへ行きたい” そう口にするだけで、一瞬で目的地に着けるんだ。 陣を造ったのはダーマン星の魔族達。 腕の良い職人達が、長い年月をかけ、あらゆる場所に設置してくれた。 その陣の上に立ち、ウチは目的地を口にしようとした。 だけど……喉が詰まって声が出ない。 魔族が造った移動の陣は凄いんだ。 正確で、早くて、瞬き一つで到着するから、口にすれば着いてしまう。 ウチ、バラカスになんて話せばいいのかな。 ウチが駄目にしちゃったのかな。 バラカス、きっと悲しむだろうな。 足元では陣が緑色に発光し、ウチのコトバを待っている。 どこに行くのか、どこに行きたいのか、どこへ行かなければならないのか。 そうだ……いつまでもこうしている訳にはいかない。 バラカスに会いに行こう。 話をしに____ 『………………陣よ、バラカスのオウチに連れて行って、』 途端、陣は一際強く光を発した。 包まれるような感覚、慣れたはずの感覚なのに、それはひどく辛い感覚だった。 …… ………… ……………… 強い光がおさまって、まわりの景色は一変した。 ミシレイニアスの街は消え、代わり、呆れるくらいの大きな建物、バラカスのオウチがあった。 『着いちゃった、』 また1人で呟いて、そして大きく息を吸った。 窓を視れば電気がついている。 暖色の優しい光だ。 バラカスが待っている____ 『ただいまぁ……』 玄関のドアを開け、小さな声で言ってみた。 奥の方から『おう、』と短く返事が聞こえて、ウチは手のひらに汗を掻く。 のそのそとリビングへと進む……リビングと言ってもバラカスサイズの部屋だから、ヒト族のウチから視ればそこはまるで大きな公園だ。 敷き詰められた芝生、その真ん中にバラカスがいた。 『……ただいま、……遅くなっちゃったかな、』 小さな声でそう言うと、 『まだ10時前だぜ? ちっとも遅かねぇよ。出て行ったのが遅かったんだから』 バラカスもまた小さな声でそう言った。 ここで……沈黙だ。 ウチは何か言わなくちゃと思って、手に持っていた小さな箱を上に掲げた。 『これ、おみやげ! あのね白雪ちゃんとケーキを食べたんだ。だけど今日は食べきれなくて、そしたらお店の(ひと)が包んでくれたの。おいしいからオウチで食べてくださいって。バラカスには小さいかな、でもさ、味はわかると思うから食べてみてよ、ウチはもうお腹いっぱいで、』 不自然かな。 白雪ちゃんと会ったのに、白雪ちゃんの話をしない。 こんなの、もう何かあったとバレてるかな。 ウチ、なんて言ったらいいかな。
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