第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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うっ……う……嗚咽と声を無理に飲みこみ下を向く。 我慢しなきゃ、泣きたいのはバラカスの方だもの。 そのバラカスは、黙ったままでウチの事を抱きしめた。 ふかふかお腹が温かくって、余計に悲しくなってしまう。 『マジョリカ……悪かった。こんな事を頼むべきじゃなかったよ、辛い思いさせたな。それで……その様子じゃあ、白雪はやっぱり俺とは付き合えないと言ったのか? ああ……やっぱりか。おい泣くなよ、ああ泣くな、本当に悪い、こんな事を俺に話すの辛いよな』 パンダの霊体(からだ)にくっついてるから低い声が響いて聞こえる。 いつもは口が悪いのに、バラカスはウチが泣くと優しく話す。 『……バ、バラカス、ごめんね、せっかく、せっかく両想いになれたのに、』 情けない……ウチ、2人に仲良くしてほしかったんだ。 いつもは強気のバラカスなのに、恋に弱気になってしまって、それをウチが手助けするってはりきっちゃったの。 こんな空回りになるなんて、かえって邪魔して、白雪ちゃんも傷付けた。 ウチは最低だ…… 『良いんだ、泣くな、心配するな。なに、100年も言えなかった気持ちを伝える事が出来たんだ。俺はよ、それだけで大満足だ』 大きな手がウチの背中を撫ぜつける。 昔から変わらない、優しくて安心出来る大好きな手だ。 『だ、だけど……! 伝えて、白雪ちゃんと付き合えるようになったのに、また元に戻っちゃった……ううん、元になんて戻ってない、白雪ちゃんを怒らせたもの……みんなウチのせいだ……』 『なんだよ、ぜんぜん(ちげ)えよ。悪いのはどう考えても俺だろ。分かってるんだ、ホントはよ。最初から俺から話すべきだった。まったくな……わかっちゃいたんだがなぁ……もし、俺じゃない誰かが、俺と同じ状況になったら、そんなモンはテメェで行けって言うのによ、』 『バラカス……』 『ケケ、笑ってくれや、好きすぎてビビっちまった。再構築の事、ソレガシーの事、そういうの俺から話してよ、面と向かって嫌いなんて言われた日には……おそらく立ち直れねぇ。だからって娘にそれを頼むなんざ、なっちゃいねぇ。挙句、こんなに泣かしてたんじゃあ父親失格だわ。お前はなんにも悪くねぇ、白雪だって悪くねぇ。チキンな俺がみんな悪い。マジョリカ、許してくれ』 バラカス……違う……違うよ……ごめん……ごめんね…… 『…………うぅ……ぅぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん』 駄目、泣いたら駄目だと思っているのに、堪える事が出来なかった。 本来……そう、本来のバラカスは強いパンダだ。 頭が良くて意志が強くて、口が悪くて誰にも媚びない。 言いたい事は遠慮もなしにズケズケ言って、ちょっとくらいの悪いコトも平気でしちゃう。 長い付き合いだもん。 そういうの、ずっとずっと視てきたよ。 そんなパンダの唯一の弱点……それが白雪ちゃんだ。 地獄送りの極悪パンダは、姫に救われ姫に恋した。 姫の為ならなんだって。 どんな無茶でも気合いで乗りきる。 姫が好きで好きすぎで、100年想って、それがやっと伝わって、夢のような幸せに、酔うと同時に失う事に恐怖した。
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