第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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【えー! やーだー! せめて5分! だってさ、アタシこの一週間、マジョリカとしゃべってないんだよ! ここんとこ仕事で遅かったんだ、やっと今日は休みなのに……だーーー! 今夜くらいしゃべらせろー!】 ほらね、ぜんぜんだ。 しゃべらせろってゴネまくり、なんでこの子はこうかなぁ……はぁ。 ウチは小さくため息をついた。 悪気はないけど押しが強い。 いつだってこの調子だから、霊媒師としての大倉は【光道開通部(こうどうかいつうぶ)】で有名(・・)だ。 【おーい! マジョリカー! って、手ぇ振っても視えないか。なぁ5分だけー! ダメなら3分ー! おーい! マージョーリーカーちゃーん!】 う、うるさ……お願いだから今夜は退いて、あきらめて。 今、こっちはそんな空気じゃないの。 この会話、バラカスにも聞こえてるから、口開けてポカンとしてるから。 【あーもー! 弥生はバカだろ、なぁバカだろ、 ”マージョーリーカーちゃーん!” じゃないよ! マジョは今忙しいんだからわがまま言うな! あんまり困らせるとそのうち嫌われるぞ!】 ちょ、ちょっとジャッキ、ヘンなコト言わないで! こんな事で嫌いになったりしないよ、ウチ、大倉のコト好きだもん! うるさいけど、しつこいけど、たまに困るけど、それでも大好きだもん! ジャッキに叱られ、だけどきっと、大倉はまだまだ粘るハズ……と思っていたのに、ウチに嫌われると聞いた途端、声のトーンが急に下がった。 【……え……アタシ嫌われるの? そんなのヤダ……ごめん……アタシ、マジョリカを困らせたのか……そか……分かった……淋しいけど……もう言わないよ……】 あ……出た。 散々騒いだあと、いきなりショボンとしちゃうやつ。 ウチはこれに弱いんだ、……で、でも今夜は本当にダメなんだから。 大倉のわがまま聞いてあげられないの、ごめんね。 そのかわり、明日いっぱいしゃべろうよ、ずーっとしゃべって、そのまま眠くて寝ちゃうまで……だから、ねっ、お願い、今夜はガマンして! お風呂入って歯磨きして大人しく寝てーっ! ウチは心を鬼にして、大倉の呼びかけに応えずにいた(一度でも応えると、さらにしつこくなる、離してくれなくなる)。 あとはもうジャッキに任せるしかない……なんて思っていたら、一緒に聞いていたバラカスが、半ば呆れて言ったんだ。 『おい、マジョリカ。弥生が死にそうな声出してんじゃねぇか。ちったぁ、しゃべってやれよ。それによ、現世との通信はお前だって楽しみだろ。もしかして、俺に気ぃ遣ってんのか? 大丈夫、気にせず話せ。なんなら俺にも喋らせろ』 い、いいの? そりゃあ、みんなで話せたら嬉しいけど……バラカス、無理してないかな?
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