第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

108/285
前へ
/2550ページ
次へ
…… ………… 『待ってくれ! 話を聞いてくれ!』 あ……! バラカスの声だっ! ウチは急いでオペラグラスを目にあてた。 レンズを通せば遠くの景色が近くに視える、右に左に顔を動かしてると……いた! 『ジャッキ、大倉! バラカスが白雪ちゃんを視つけた!』 ドキドキしながら報告すると、ジャッキは声を潜めて言ったんだ。 【そうか! やっと会えたんだな、……バラカス、頑張れよ……、マジョ、すまないが、しばらく2人の様子を実況してくれ】 『うん、分かった。ウチ、頑張る。えっと…………白雪ちゃんはバラカスに背中を向けて立ってるよ。バラカスは ”話を聞け” って言ってるけど……あっ! 白雪ちゃん、返事もしないで歩き出しちゃった、バラカスは後ろを追いかけてるけど……ウソ! 白雪ちゃんが走りだしたよ、バラカスも追っかけた! どうしよう、このままじゃ遠くに行っちゃう、視失っちゃう、ジャッキ、大倉! ウチ、追いかけてみる!』 白雪ちゃんは足が速いから、本気で走らないと追いつけない。 ウチはサンダルを脱ぎ捨てて、裸足になって地面を蹴った。 タタタタタタ! 走りながら前を視ると目線の先にはバラカスが。 ウチとの距離は約20メートル前後、くらいかな。 白雪ちゃんの姿は、この位置からは視えてこない。 パンダの霊体(からだ)が大きくて、その陰に隠れてるんだ。 『白雪! 待てって! 俺の話を聞けよ!』 バラカスが数度目の大声を上げた。 その声は焦ってて、必死で、一生懸命で、そのせいかウチにぜんぜん気付いてない(よ、良かった……)。 呼び止められた白雪ちゃんは、やっぱりというべきか……取り付く島がまったくなかった。 『いやよ、待たないわ。私、バラカスと話す事なんてないもの』 言い返す声だけが聞こえてきた。 大きくて、心なしか震えてる……白雪ちゃんも大丈夫かな……心配だよ。 バラカスは足を止めずに追いかけながら、なおも大声を張った。 『お前になくても俺はあるんだよっ! いいから止まれ! 5分でいいから俺の話を聞いてくれ!』 『勝手な事言わないで! そんなに話がしたいなら、なぜ最初から来なかったの? マーちゃんに代わりに言わせるなんて卑怯じゃない!』 『それは俺が悪かった。白雪の言う通りだ。俺がチキンなばっかりに、お前とマジョリカに嫌な思いをさせちまった。あやまるよ』 『……マーちゃんには? ちゃんとあやまったのかしら』 『ああ、』 『そう、それならいいわ。だけどね、私にはあやまらなくていい。あやまってもらっても遅いもの……! ねぇ、バラカス。私はね____』 あっ!! バラカスが止まった、走るのをやめて、立ったまま動かない。 そして……大きな背中に隠れてるけど、パンダの向こうに白雪ちゃんがいるはずだ。 少しの沈黙の後、白雪ちゃんはこう言った。 『____すごく悲しかったの』
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加