第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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数えきれない香りの種類。 その中から選んだのは、白雪ちゃんの大好きな柑橘系だ。 ウチの手にはオレンジ色の丸い入れ物、爽やかな香りのシャボン水がある。 それと細長いストローだ。 そのストローには、真ん中くらいに小さなボタンがいくつもあって、それを押してシャボン玉の飛行範囲を設定するの。 『んと……ウチから2人まで10メートルくらいだから……それよりもっと飛ばさないと届かないな……じゃあ ”飛行範囲” と ”高度” はこのくらい、それと大きさは ”ランダム” で、強度は ”中” 。とりあえずコレでいこう』 設定済のストローをシャボン水につけた。 ちょっとでいい、ほんのちょっとで足りちゃうの。 目線を上げるとバラカスの背中がドーンとあって、その向こうには、背中に隠れて胸から下しか視えないけれど、鼻をすする白雪ちゃんがいる。 あ……もしかして泣いちゃったのかな、……ごめんね、ウチ、このくらいしか出来ないけど、白雪ちゃん、お願い、悲しまないで、泣き止んで、笑って____ すぅぅぅ…… ウチは息を大きく吸い込んだ。 肺いっぱいに空気を入れて、それをストローの先端から……フーーーーッと強く吹き込んだ。 …… ………… 『……私、駄目ね。きっと恋愛に向いていないんだわ』 『そんな事ねぇよ。俺がみんな悪いんだ。白雪を不安にさせた、こんなに悲しませた。誰かを好きになるってのはよ、もっと楽しくて、もっと幸せなものなんだ。俺はお前とそういう気持ちを分かち合いてぇと思ってるのに……うまくいかねぇな、』 『バラカス……ごめんなさい。今の私達には距離が必要よ、しばらく会わないで頭を冷やして考えましょう。それで何年か経って、その時、もしまた親友に戻りたいと、そうお互いに思えるのなら改めて、』 『ちょっと待て! しばらく会わないってのは数年単位なのか!? 本気か?』 『……ええ、本気よ。今の私達、少し熱くなりすぎてるわ。こういう時に結論を急いでも良い結果は得られない、』 『…………ダメだ。そんなのは耐えられない、……俺はお前がいなけりゃ黄泉にいる理由がなくなっちまう……』 『なにを言ってるの、黄泉(ここ)はあなたの居場所じゃない。それに、黄泉の国は永遠の時を刻む、その中の数年なんてあっという間だわ……ああ、バラカス、そんな顔しないで……どうしよう、私、頭の中がグチャグチャよ、 ………………………………………………、え……? ………… ……………え……? なに……? なんで……? こんなところにシャボン玉……? 良い香り……』 ウチはひたすらシャボン玉を吹いていた。 貧血になりそうなほど、吹いて吹いてまた吹くの。 ねぇ、白雪ちゃん、お願い笑って、バラカスの話を聞いてあげて____
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