第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『……………………なんだこりゃあ』 呟いたバラカス。 大きなパンダは腕をダラリと下げたまま、ゆっくり辺りを見渡している。 『…………綺麗……それに……良い香り……』 白雪ちゃんも呟いた。 声はとっても小さくて、言葉の終わりにため息が混じり込む。 2人はほとんど同時に呟き、ほとんど同時に黙ってしまった。 聞こえてくるのは、白雪ちゃんの息遣い。 吸って……吐いて、吸って……吐いて、そのリズムはさっきと違う。 規則的で、柔らかくて、とても深い。 沈黙が流れる中も、ウチはずっとシャボン玉を吹き続けていた。 大きく息を吸い、フーーーーッと強く吹き込んで、それを何度も、そう、何度も何度も繰り返す。 さっきの白雪ちゃん、シャボン玉視て綺麗って言ってくれた、良い香りとも言ってたよ。 少しは和んでくれたかな。 もっとたくさん飛ばしたら、もっと和んでくれるかな。 そしたらバラカスの話、ちゃんと聞いてくれるかな。 仲直りしてくれるかな、……ん、してほしいな。 どうか願いが叶いますように。 その想いをストローに吹きこめば、想いのぶんだけシャボンが玉が増えていく。 夜の澄んだ空気の中に、虹の膜を張りながら、ふわりふわりと宙を舞う。 …… …………それから、そう長くない時間がたった。 ウチは息を吐きすぎたのか酸欠みたいになってしまって、ストローを口から離して目を閉じた。 地面の上に低くしゃがんでジッとして、オートリカバーの修復に霊体(からだ)を委ねる。 こうしていればすぐ治る、大丈夫、治ったらまたシャボン玉を増やさなくっちゃ、……と思ったその時、白雪ちゃんの声が聞こえたの。 『…………綺麗……ああ綺麗……こんなにたくさんのシャボン玉……なんて幻想的なのかしら……それにとっても良い香り……私の大好きな柑橘の香りよ、』 あ……声が弾んでる、 白雪ちゃん、喜んでくれてるんだ。 嬉しい、ウチ、嬉しいよ。
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