第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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白雪ちゃん……そんな事を考えていたんだ。 不安の原因が ”バラカスに迷惑をかけてしまうかも” 、だなんて真面目な白雪ちゃんらしいよ、…………でもね……あのね、チガウんだ、そうじゃなくてね、____ 『白雪、』 囁くような低い声。 視上げるほどの大きな背中はフコフコと丸い。 あの背中の向こう側では、白雪ちゃんを守るようにハグしてるはずだ。 『………………なに、』 守られるお姫さまは、返事が短く泣き出しそうな掠れ声。 いつもなら……普段なら……こんなふうに泣き出しそうなオペレーターを白雪ちゃんが抱きしめる。 ”大丈夫、泣かないの” 、 ”あとは任せて” って笑うんだ。 ああ……そうだよね。 【光道開通部(こうどうかいつうぶ)】の(おさ)はさ、みんなから頼られて、みんなに優しくしてくれる。 だけど(おさ)が泣きたい時はどうするの? 弱みを視せない白雪ちゃんは、誰の胸なら安心して泣けるんだろう。 『俺に迷惑をかけるかもしれねぇから付き合えないって言ったよな、そこが不安だってよ』 『…………うん、』 『あのな、お前は一つ勘違いをしてる』 『……勘違い……?』 『そうだ。恋愛ってよ、誰かを好きになるとな、脳はとんでもねぇバグを起こすんだ。大したツラじゃねぇ男が超絶イケメンに視えるのは当たり前、引くほどのオタクっぷりが博識に思えたりもするんだよ』 『……そ、そうなの?』 『ああ。愛情が深ければ深いほどバグもデカイ。そうなると、もはや自分がバグってるコトすらわからくなるんだ。好きな相手が笑っただけで天にも昇る気持ちになるし、泣いてりゃどうにか慰めてぇ。うまいモンは一緒に食いてぇし、うまい酒もおんなじだ。寝ても覚めても心の中は、好きな相手でいっぱいで……ま、そのくれぇオカシクなるとよ、相手がなにをしたってキライになんかなりゃしねぇ。つまり、この先白雪が俺に迷惑をかけたとしても、なんの問題もねぇんだよ。だって俺は、それを迷惑だと思ねぇから』 わ、わかる……ウチ、バラカスの言ってるコトぜんぶわかるよ……! 感動しちゃって涙が出ちゃう……ん、でもウチが分かってもダメなんだ。 白雪ちゃんは? 今の聞いて、どう思ったかな? 少しは安心できたかな……? 『……そう……なの? 迷惑だと思わないの……?』 『思わねぇ。それどころか嬉しいと思うかもな』 『う、嬉しいって、そんなのヘンよ……!』 『ヘンじゃねぇよ。好きな女が不安になって、それを ”迷惑だから” としまい込まれる方がイヤだ。しまいこんで本心隠して、なんともないフリしてよ、挙句数年単位でしばらく会わないなんて言われたら……、お前じゃねぇが悲しくなる。だったら全部ぶちまけてくれ。”バラカスのココが嫌だ、あそこが嫌だ”と文句を言って、昔みてぇに助走をつけて飛び蹴りしてくれ』 『……飛び蹴り……や、やだ! いつの話してるのよ、……あの時はゴメンナサ……ん、これは謝りたくないわね。バラカスが黄泉に来てすぐの頃、あなた絡みのトラブルばかりで大変だったんだから』 『ケケケ! そりゃあ悪かったよ。大変だったよな』 『本当だわ、1日に何回あやまったと思ってるのよ。あやまってる最中から別のトコロでトラブル起こすし……、はぁぁぁぁ……大変だった。………………ん、そう、大変だったのよね、そう、とっても、とってもよ』 『パ、パン……悪かったよ。あの頃まだ黄泉に馴染んでなくてよ、白雪には迷惑かけたな』 『…………ううん、いいの。いいのよ…………私、あの頃大変だったけど、迷惑だなんて思わなかったわ。…………私、』
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