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白雪ちゃんは少し黙って、それから、バラカスみたいに囁くようにこう言った。
『私……迷惑と思わなかったのよ』
”そうか” と返したバラカスの、大きな背中が揺れている。
小さく左右に、よく視なければ分からない微かさだけど……あれはクセだ。
バラカスは何か大事な事を考える時、ああやって霊体を揺らす。
ウチがそれに気付いたのは随分前で、聞けば生きていた頃からのクセなんだと言っていた。
今のパパはなにを考えているんだろう。
『どうして思わなかったのかしら……100年前、バラカスは今よりもっと毒舌で、自分から元悪霊だと言ってしまうから、まわりから怖がらてれどんどん孤立していった。私は……そんなあなたが心配で仕方がなかったわ。どうしてそんなコトを言うのかしら、せっかく黄泉の国に来れたのに、このままじゃみんなから嫌われる、私以外に友達が出来なくなるって』
『ま、あの頃はよ、お前さえいれば友達なんていらねぇと思ってたからな』
『そうだわ、バラカスはよく言ってたわね。私がいれば他に誰もいらないって……私はそう言われて心配になる反面、嬉しくもあったのよ。こんなに頭が良くて、こんなに優しいパンダが私となら友達になりたいと…………ううん、友達じゃない。もっと特別、親友になりたいと望んでくれたんだもの』
『…………』
『私、それがとても嬉しかった。あなたとは気が合うから、話をすれば時間を忘れる。楽しくて、毎日だって会いたくて、私の中でもあなたは特別だわ。バラカスの為なら誰かにあやまるのも苦にならない。こうしてあやまっていれば、いつか誤解がとけてバラカスにたくさんの友達が出来る、それが楽しみで迷惑なんて思わなかった。
………………ねぇ、バラカス。ひとつ教えて。あなたはさっき言ったわよね。誰かを好きになった時、そのヒトに迷惑をかけられても、それが迷惑だと思わなくなるって』
『ああ、言った』
『…………わ、私、あなたの為にたくさんあやまってきたわ。で、でも、でも、それを迷惑だと思わなかった。た、ただの1度もよ。あんなに大変だったのに、光道で起こるトラブルがカワイク思えるくらいなのに、それなのに嫌じゃなくて、あなたが心を開いてくれるのが嬉しくて、毎日会うのが自然に思えて、誰にも言えない愚痴すら話せて、しばらく会わないって私から言ったクセに淋しくて辛いのは、それは、もしかして…………ああ、ダメ、頭の中がグチャグチャよ……分からない、お願い教えて、バラカスの言った事が本当なら、私は、もしかしたら、とっくに、………………あなたの事が好きなのかしら』
あ…………白雪ちゃん……それって、それって、……バラカス……!
早くなにか言ってあげて、早く、お願い、
バラカスが黙ったのは、たぶん数秒なんだと思う。
なのに長く感じた。
すごくすごく長いと思ったんだ。
沈黙が、破られた。
バラカスは静かな声で、
『ああ、そうだ。おまえは俺が好きなんだ。とっくに、そう。100年前からな』
こう言ったんだ。
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