第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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白雪ちゃんは少し黙って、それから、バラカスみたいに囁くようにこう言った。 『私……迷惑と思わなかったのよ』 ”そうか” と返したバラカスの、大きな背中が揺れている。 小さく左右に、よく視なければ分からない微かさだけど……あれはクセだ。 バラカスは何か大事な事を考える時、ああやって霊体(からだ)を揺らす。 ウチがそれに気付いたのは随分前で、聞けば生きていた頃からのクセなんだと言っていた。 今のパパはなにを考えているんだろう。 『どうして思わなかったのかしら……100年前、バラカスは今よりもっと毒舌で、自分から元悪霊だと言ってしまうから、まわりから怖がらてれどんどん孤立していった。私は……そんなあなたが心配で仕方がなかったわ。どうしてそんなコトを言うのかしら、せっかく黄泉の国に来れたのに、このままじゃみんなから嫌われる、私以外に友達が出来なくなるって』 『ま、あの頃はよ、お前さえいれば友達なんていらねぇと思ってたからな』 『そうだわ、バラカスはよく言ってたわね。私がいれば他に誰もいらないって……私はそう言われて心配になる反面、嬉しくもあったのよ。こんなに頭が良くて、こんなに優しいパンダが私となら友達になりたいと…………ううん、友達じゃない。もっと特別、親友になりたいと望んでくれたんだもの』 『…………』 『私、それがとても嬉しかった。あなたとは気が合うから、話をすれば時間を忘れる。楽しくて、毎日だって会いたくて、私の中でもあなたは特別だわ。バラカスの為なら誰かにあやまるのも苦にならない。こうしてあやまっていれば、いつか誤解がとけてバラカスにたくさんの友達が出来る、それが楽しみで迷惑なんて思わなかった。 ………………ねぇ、バラカス。ひとつ教えて。あなたはさっき言ったわよね。誰かを好きになった時、そのヒトに迷惑をかけられても、それが迷惑だと思わなくなるって』 『ああ、言った』 『…………わ、私、あなたの為にたくさんあやまってきたわ。で、でも、でも、それを迷惑だと思わなかった。た、ただの1度もよ。あんなに大変だったのに、光道(こうどう)で起こるトラブルがカワイク思えるくらいなのに、それなのに嫌じゃなくて、あなたが心を開いてくれるのが嬉しくて、毎日会うのが自然に思えて、誰にも言えない愚痴すら話せて、しばらく会わないって私から言ったクセに淋しくて辛いのは、それは、もしかして…………ああ、ダメ、頭の中がグチャグチャよ……分からない、お願い教えて、バラカスの言った事が本当なら、私は、もしかしたら、とっくに、………………あなたの事が好きなのかしら』 あ…………白雪ちゃん……それって、それって、……バラカス……! 早くなにか言ってあげて、早く、お願い、 バラカスが黙ったのは、たぶん数秒なんだと思う。 なのに長く感じた。 すごくすごく長いと思ったんだ。 沈黙が、破られた。 バラカスは静かな声で、 『ああ、そうだ。おまえは俺が好きなんだ。とっくに、そう。100年前からな』 こう言ったんだ。
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