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「爺ちゃんはさ、私がなんで怒ってるかわからないの?」
やっと口を開いてくれたとユリちゃんだったが、お父さんに対して不満があるようで、プンプンとしかめっ面だ。
『う……やっぱりなんか怒ってるのか。爺ちゃん、ユリになにかしたか? 爺ちゃん男だからよ、細けぇコトわかんねぇんだ。爺ちゃん、なんか悪いコトしたんなら教えてくんねぇか?』
「爺ちゃん、いつも私に言ってたよね? 悪い事をしたら素直に謝りなさいって。それから人の話はキチンと聞きなさいとも。昔、爺ちゃんが早とちりして行き違ったせいでママが家から出て行っちゃったんだって、そう言ってたでしょう?」
あーアレだ。
田所さんが東京に行く前の晩のコト言ってるんだな。
確かにあれはお父さんが悪い。
話を全部聞く前に暴走しちゃうのは悪いクセですよ。
僕はユリちゃんの話を聞きながら小さくウンウンと頷いていると、一瞬で悪鬼の顔に戻ったお父さんがギッと僕を睨みつけた。
こ、怖っ……!!
「ちょっと爺ちゃん、私の話聞いてる?」
『あ、ああ、ちゃんと聞いてらぁ。爺ちゃん、気が短けぇからよ。まどろっこしい話は最後まで聞いてらんねぇんだ。けどよ、爺ちゃん、ユリの話はちゃんと聞いてんだろ? あと婆さんの話もだ。爺ちゃん、貴子の話を最後まで聞かなかった事ずっと後悔してるからよ……』
そう言って頭を垂れるお父さんは、やはり田所さんの死に対して重い十字架を背負ってきたのだろう。
昨夜視た、若かりし頃のお父さんが目を細め娘のアルバムをめくる姿が鮮明に浮かぶ。
あの時の幸せそうな顔。
ちょっとしたボタンの掛け違い、それが親子を永遠に引き裂いてしまった。
もう二度と同じ失敗はしない、絶対にユリちゃんを守り抜く。
そんな強い想いがこの頑固なお父さんを変えたんだ。
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