第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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今ではもう通い慣れた現世だけれど、初めて行ったあの夜は、酷く緊張したのを覚えてる。 ちっちゃなヤヨイに連れてもらって、イキビトの国____現世の地に立った時、そこで初めて大倉に会ったんだ。 寂れた公園の真ん中で、背筋を伸ばして立っている……この女性(ひと)が……大倉弥生。 ずっと前から声だけは知っていたけど、顔を視るのは初めてで……ウチは、釘付けになっていた。 なんて……綺麗な人なの。 猫を思わせる整った目鼻立ち。 白い肌に長い艶髪。 髪と同じ黒い瞳は、気を抜いたら吸い込まれてしまいそう。 細いけれど筋肉質な身体つき。 よく視れば、あちこちに細かい傷がある。 きっと……守られるだけじゃない、誰かを守れる女性(ひと)なんだ。 ウチとぜんぜん違う____ ジャッキは本当はこういう女性(ひと)が好きなのかな。 大人っぽくて、綺麗で、強くて、……ウチは心が折れそうになった、けど、負けないって思ったの。 だって悪いのは大倉だ。 ウチはジャッキの奥さんで、大倉はそれを知ってるはずなのに、そんな子じゃないと思っていたのに、なのに、ジャッキを好きになるなんて許せない。 顔を視るほど腹が立った。 長い髪も、綺麗な目も、そのすべてがジャッキに愛されてるのかと思ったら、頭の中が沸騰して、冷静さを失って、感情的になって……誰かに対してあんなに声を荒げたのは、生きていた頃を含めてもあの夜だけだ。 大倉はどんな気持ちで責められていたんだろう? あの子は何を言われても、自己弁護をしなかった。 代わり、言葉にしたのは、 ____アタシがみんな悪いんだ、 これだけだった。 …… ………… ……………… あの時のウチはすごく嫌な子だったと思う。 思い出すと落ち込むくらいに酷い事を言った、必要以上にあの子を責めたんだ。
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