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社長の車の後部座席にユリちゃんとお父さんを乗せ、僕らはアパートへと引き返す。
車のルームミラーに映るのは、期待と緊張に頬を染めるユリちゃんだけで、そこにお父さんの姿はない。
僕の目に視えるお父さんは、生きている人となんら変わりはないのに、振り向けば確かにいるのに、それでもこの小さなルームミラーが語る現実に切なさを感じた。
高校を卒業したばかりの孫娘を、ひとり残して逝くのは心配で仕方ないだろうに。
それでも肩を寄せ合う祖父と孫娘は、楽しげに田所さんに会える喜びを分かち合って……ん?
……うん。
そう、確かに気持ちを分かち合ってる、よな。
お互いに顔を寄せ、ユリちゃんは花のような笑顔で、お父さんはそんな顔できるんだ? ってくらいのデレた表情で、ガッツリ目を合わせ笑い合っている。
んんん?
うん……あれ?
えっとー、
「ユリちゃん?」
僕はシートベルトをしたまま半身を捻って後ろを向いた。
「はぁい?」
か、かわいいな……!
田所さんにそっくりだ(ま、お父さんにも似てるんだけど)。
それにしても、まだあどけなさの残る少女で助かった……僕は美人相手だと緊張してうまく話せないのだ。
だけどユリちゃんならギリ話せそうな気がする。
美人というより子供のような、かわいらしい要素の方が強いからだ。
さすがの僕も子供が相手なら緊張しない。
まあ欲を言えば、常に鼻水でも垂らしてくれてればよりベストなんだが。
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