第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『魔法の手かぁ、確かにそうだね。昔ね、ジャッキもお世話になったんだよ。白雪ちゃんは知らないでしょ。ジャッキね、黄泉に来た時すごい恰好してたんだから。ヨレヨレのシャツに古びたジャージ、白髪交じりの傷んだ長髪で、ずいぶんとワイルドだなぁって思ったもん。タッキーはさ、そんなジャッキをすっごく素敵にしてくれたんだ』 懐かしい。 ____自分、そんなに変な恰好してる? ____少なくとも正装じゃあないなぁ、 そんな話をして、それで……ウチが連れてったんだ。 タッキーのお店に。 仕上がったジャッキを視た時、ウチはさ、まともに顔が視れなかった。 あまりにも素敵で、あまりにも逞しくて、あまりにもドキドキしちゃって。 『なぁに? マーちゃん、今1人で笑ってたわ。何か思いだしてたの?』 白雪ちゃんにそう言われ、慌てて顔を引き締めた。 恥ずかし……思い出して、うっかりニマニマしちゃったよ。 『ううん、チガウの、ごめん気にしないで、……それより! やっぱりタッキーはすごいよねぇ。魔法の手でこうパパーッとさ、あっという間に素敵にしちゃうんだから』 話を戻そうと、ウチは大袈裟に両手を上げた。 白雪ちゃんはそんなウチにちょっぴり笑ってこう言った。 『そうね。実を言うと私、鏡を視ながらドキドキしてたんだ。自分がどんどん変わっていくんだもの。不思議だった、ずっと視てた。本当の魔法みたいって思ったわ』 『あははは、わかる! 本当に本当に魔法だよね! あはは……はは……はぁ……そだね、うん、わかるよ、すごく、すんごくね____』 ああ、やだな。 いきなり来たよ。 コトバは鍵だ。 ふとしたきっかけで開かれる。 記憶が蘇る。 思い出そうとしてる訳じゃないのに、ウチの意思とは関係無しに、急に思い出すんだ。 それが辛かった事なら尚更、鮮明に____ ____店長は魔法使い、 呪文は唱えないし、魔法の杖も使わないけど、それでもやっぱり魔法使いだ。 タッキーはコナモノ星のタコ族で、生者の頃は超有名な美容家さん。 本当にすごいんだ。 魔法の手はどんな(ひと)でも素敵にしちゃう。 タコ族はもちろんだけど、ヒト族もウサギ族もカンガル族も、それ以外の霊達(ひとたち)も、みんなに魔法をかけてきた。 魔法…………ウチも1度だけ、かけてもらった事があるんだ。 昔、死んですぐ後。 あの時、ウチは光る道を泣きながら歩いてた。 何度も頭を触りながら、触るたび叫ぶくらいに泣きながら。 今、ウチの髪は宇宙色だ。 黒髪にリアルの星が映り込んでる特別な髪。 前に、ジャッキに聞かれた事がある。 ____どうして黒髪に星が輝いてるの? って。 ウチは答えられなかった。 わざとふざけて、 ____髪はね、ん………………ウチ、わかんなーい ★ こう答えるのが精一杯だった。 本当はね。 どうして星が輝いてるかというとね。 それは、タッキーが魔法をかけてくれたからなんだよ。 ウチの髪は元々ブロンド。 生者の頃も長い髪が大好きで、大事に大事に伸ばしてた……なのに。 ウチの命が終わる寸前。 現世で最後に見たものは、幼馴染の姿だった。 誰もいない崖の下。 倒れたウチは意識が朦朧としていた。 それでも覚えてるよ。 忘れられないよ。 彼女はひどく怒った顔で、一心不乱に、ウチの髪を切り刻んでいたんだから。 ★ ジャッキーと髪のコトを話したシーンがココです。 https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=658&preview=1
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