第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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ジーナは吐き出すようにそう言うと、しばらくウチを見下ろしていた。 その目はとても冷たい……のだけど、地面(した)から見上げるせいなのか、薄茶の瞳のうんと奥が揺れているように見えた。 その揺れが気になって見つめていると、ジーナの目がみるみるうちに赤くなり、瞬き一つで涙がボロボロ零れてきたの。 ジーナはそれを拭う事はしなかったから、涙の雨がウチの頬にたくさん落ちてきたんだ。 「……ねぇ、そう言えば、さっきの質問の答えがまだだったよね。先月さ、仲良く話してバイバイしたのに、次の日から急に無視したのはなんでって聞いたでしょ……? 本当は言わないつもりだったけど…………たぶんこれが最後になるから教えてあげる、」 制服が汚れるのも構わずに、ジーナは地面に膝を着くと淡々と話を始めた。 「私に好きな人がいるのは話したよね? もう1年以上も片想いしてる人。あの日、マジョリカとバイバイした後、彼から電話が来たんだよ。びっくりした。すごく嬉しかった。デートの誘いだったらどうしようって一人で舞い上がった。でもね、違った、恋愛相談だったんだよ。好きな女の子がいる、ジーナの幼馴染みの子って……そうだよ、マジョリカのコトが好きだから、うまくいくように協力してほしいって言われたの」 「え………………」 「ショックだったよ……だってすごく好きだったから。それと同時にまたかって思った。マジョリカには言ってないけど、こういうの初めてじゃないんだ。今まで何回もあった。思い出すと辛くて惨めで、もう……怖くなっちゃったんだ。アンタと一緒にいる限り、これから一生恋なんて出来ないんだろうなって」 「…………………」 「だから次の日から無視したの。私からすれば意地悪じゃない。卒業まで待てない、早く離れないと私が壊れちゃうもの。一緒にいるのは学校の行き帰りだけ。本当はそれも辛かったけど、そうしないと周りがウルサイから、そこだけは我慢した。おかげでこの一か月、少しだけ気持ちが楽になったんだ」 話すジーナは疲れきった表情で、きっと……こういう顔を、ウチのいない所でずっとしてたんだろうな。 さっきみたいな酷い事、言わずにはいられない程に。 「……ジ……ごめん……、」 「……はぁ……だからさ、こんな時までさ」 「…………ごめ……ん」 「……ほんっとに……もう……やだ、嫌になる。人間って追い詰められると本性が出るんじゃないの? 私は出ちゃったよ。嫉妬と劣等感で真っ黒だ。歪んでるでしょ? 滑稽でしょ? アンタから見て私はどう映る? かわいそうなジーナって感じ? そんな事……思わないか。だって、どこまで剥いてもアンタは綺麗だもの、見た目も、心も、辛いよ……惨めだよ……だから距離を置いたのに……私は彼の事がまだ好きで、マジョリカと話すのが辛くて、話せば悪い方に転がりそうで……なのに、話がしたいなんて言うから……ああ、ヤダ、嫌だな、やだよ、ヤダ、やだ、」 最後の方、ジーナはブツブツ言いながら手にした携帯電話をカバンにしまった。 代わり、取り出したのは……ハサミだった。 今日、学校で服飾の授業があった。 それを持って帰ってきたの? ジーナ……なにをする気……?
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