第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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ウチの身体にかぶさるように。 地面の上に膝を着き、首にハサミをあてがうジーナは、ボロボロに泣いていた。 ハサミを持つ手を下から掴んでいるけれど、距離としてはギリギリだ。 ちょっとジーナが身体を起こせば、簡単に切り離される。 そうならないよう、繋がっていられるよう、ウチは慎重に声を掛けた。 「ジーナ……ハサミを放して」 聞いたジーナは口元をうんと歪ませ、微かに顔を左右に振った。 ああ……お願いよ、言う事聞いて、ハサミを置いて。 一緒になんか来なくていい。 ウチが崖から落ちたのは、とても不幸な事故だった。 夏の暑さが草木を大きく育ててしまい、そこが崖だとわからなかった。 たまたまウチが落ちただけ、位置が違えばジーナが落ちてた。 そう、運が悪かったんだ。 ウチは何度も、何度も何度もお願いした。 途中で意識が何度も飛んで、そのたびジーナが悲鳴を上げた。 ____待って、逝かないで、 ____今からでもレスキューを、 ____背中……ああ、何かが刺さって、 ____血が……血がこんなに……、 薄れる意識にジーナの声が。 夢の中を彷徨うみたいに、遠くの方から聞こえてくる。 ハサミを持つ手を掴んだままでいたいのに、そんな力は残ってなくて、ウチはもう腕を上げていられなくなった。 死の階段を数段飛ばしに降りるみたいに、ウチの意識も数段飛ばしに削られる、頭の中が白くなる、音が消える、視界がぼやける、道の光が満ちてくる。 …… ………… ……………… だめだ……せっとくの、とちゅうだったのに、もう、こえがでない、 じーな、こっちにこないでね(・・・・・・・・・)、 ありきたり、かもだけど、ウチのぶんまでいきてよ____ ……………… ………… …… 視覚と聴覚。 それらが一気に暗転し、ウチの意識は完全に途切れてしまった。 それからどのくらいの時間が経ったのかは分からない。 けれど、途切れたはずのウチの意識は、ジーナの悲痛な叫び声で明転したんだ。 「マジョリカーーーー!!」 …………!? 目の前には絶叫で取り乱す幼馴染の姿があった。 こんなに泣いてるジーナを視るのは初めてで、ウチは目が離せないでいた。 ウチの事が大嫌いだと言ったジーナ。 そのジーナは、地面に倒れるウチを抱きしめ(・・・・・・・・・・・・・)狂ったように泣いている。 あれは……なに? ジーナが抱いて縋っているのは、…………ウチだ。 そこにあるのはウチの身体……だよね? それならウチは……? 今、ここにいるウチは何なんだろう……? やっぱり……そうだよね、ウチは死んだんだよね。 幽霊……に、なったのかな……? いや……それよりも、もっと気になる事がある……あのヒト(・・・・)……誰……? あんなヒト、いなかった。 ここにはジーナとウチの2人しかいなかったはずだ。 他には誰もいないし、誰の声も聞こえなかった。 なのにいるの、ヒトが……ううん、……ヒト……なのかも分からない。 叫ぶジーナの背後には、赤黒い肉の塊が蠢いていた。 それはとても大きくて、手足はあるけど4本とも長さがバラバラ。 頭はあるけど顔は歪んで、ついてる場所も左の肩に極端に寄っている。 気持ち悪い……人の容姿にあれこれ言うのはいけない事。 でもヒトじゃ……ないよ、たぶん違う、絶対違う……! その肉の塊は、泣いてるジーナをバカにするように笑っていた……けど、急に黙って、立ちすくむウチの方を向いたんだ、そして、 『ああ、視えるようになったのか、あたしの事が。お前、やっと死んだんだな』 そう言って、ゲラゲラ笑ってウチを視たんだ。
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