第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『ああ、お前自身とお前に好意的なヤツからしたらそうだろうよ。だけどねぇ、コチラ側(・・・・)から視ると腹の立つ事この上ない。お前……本当に綺麗だよね、青と金の二色の瞳、ブロンドの長い髪、抜群のスタイル……ガキの頃から称賛を浴びる程受けてきたマジョリカ。自分でも思わないか? 扱いが違う、誰もかれも自分に優しい、失敗しても許してもらえる、何をしたって怒られない、困っていれば競うようにたくさんの人間が助けに来る、…………そういうの、分かってるんだろう?』 そう言って肉の塊は、ウチの顔を覗き込んできた。 乱杭歯がカチカチいってる、湿った嫌な臭いがする、怖くて泣きそうだ。 で、でも、こんな事を言われて黙っていられない。 『何を言ってるの……? ウチは普通だよ、扱いが違うなんて思ってない。確かにまわりには優しい人が多いよ。でも、ウチが間違えば怒ってくれる人はたくさんいるし、困った時に助け合うのは当たり前の事でしょう?』 『ヒヒ……さすが、返しが慣れてる。そう言っとけば嫌味な女と思われないもんねぇ。まあ、良い。そういう事にしといてあげる。誰からも愛されるマジョリカ・ビアンコ。だけどね、そんなお前の幼馴染という立ち位置は、平凡なジーナにとって地獄のような環境だったんだ。毎日毎日傷付いてボロボロ、だから穴だらけの隙だらけ、』 違うのに、そうじゃないのに、もっともっと言い返したかった。 でも……ジーナの事を言われたら、言葉に詰まってしまったんだ。 『ジーナは操られてた、だからジーナは悪くない、悪いのはぜんぶあたし……、果たしてそうか? まあ実際、操ったのはあたしで操られたのはジーナだ。でも、あたしだってジーナに隙がなければ操れなかった。じゃあその隙はどこから生まれた? ジーナの中からだ。長年溜め込んだお前に対する不満が膨れ上がり爆発したの。じゃあどうして爆発した? ヒヒヒ……それはお前のせいだろ、マジョリカ』 『……ウ、ウチは……!』 『”ウチは……” じゃないよ。いいから聞け、そして答えろ。この17年、お前はジーナの何を視てきた? ジーナが周りの奴らに好き勝手言われてた事、本当に知らなかったのか? 本当は知ってたんじゃないのか? 知ってて知らんぷりしてたんじゃないのか?』 『ち、違う……! ウチは本当に知らなかった、』 『へぇ、本当に? 知らなかったのなら本気で聞きたい。お前、本当にジーナの友達か? 友達ってなんだ? 一緒に遊んでアイスを食べるのが友達か? 違うだろ。なぜ気付いてやれなかった。そんな連中、ジーナが言い返したところで良いネタにされるだけ、言い返せるのはマジョリカだけだ。お前が言えば黙ったはずさ。なのに気付きもしなかった? お前の目はフシアナか? ジーナは言われるたびに傷付いた、自分は無価値だと泣いていた。それでも、”マジョリカは悪くない” とお前を憎もうとはしなかった』 『あぁ……ウチ……ウチ……』 『ジーナは随分と溜め込んでいたよ。だからあたしが解放してやったんだ。ジーナの気持ちが楽になるように。親友とは名ばかりのマジョリカちゃん。正解はこうだ。お前の言う通り、ジーナは悪くない、諸悪の根源は回り回ってお前だったんだよ。お前さえいなければ、いや、いても良い。お前さえジーナの傷に気付いてやれたら…………ヒーーーーーヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒーーーーーーッ!! 何もかも遅いけどなっ!!!』 あぁ…………ああ………………膝が震える……歯が噛み合わない……ウチのせいだ……ジーナが憑りつかれたのも、ウチが死んだのも、ぜんぶ、ぜんぶ……! 『ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! 気分が良い! 苦しめ! のたうち回れ! お前みたいな幸せなガキは嫌いだよ! それにしても……チッ! さっきから眩しくて堪らない。あの道……お前の迎えだろう? 優しく素直なマジョリカは黄泉の国に逝けるんだ。あたしが逝けない場所……クソッ……! 逝かせるもんか……! お前は現世で惨めに彷徨うんだよ、なんだったらジーナの傍にいたらいい。もっとも、中身はあたしになるんだけどさ』 そう言ってニィッと笑った肉の塊は、力一杯ウチの肩を掴んだんだ。
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