第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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極限に近かった。 “ちょっとの刺激” に気を付けながら、狂ってしまわないよう、少しでいいから落ち着きたくて、大きく息を吸い込んだ。 吸って……吐いて……吸って……吐いてと、生きてた頃と同じリズムを繰り返す、が気持ちは大して落ち着かない。 それどころか、こんな宇宙(ところ)で深呼吸が出来るという事がウチを一層苦しめた。 生きてたら無理だもの、幽霊だから出来るんだもの。 何度も突き付けられる現実、怖いくらいの静寂に、耳の奥は痛いくらいに鳴っている。 心臓はバクバクいって、霊体(からだ)の中から胸を破る勢いだ。 冷たい汗が背中をつたう、耳の後ろが脈打つように鋭く痛む。 していたはずの深い呼吸は、いつの間にか浅い呼吸にとって変わる。 苦しくなって、気持ちが焦って、不安感が膨れ上がって……それで、無意識にいつものクセが出てしまった。 不安になった時、考え込んだ時、決まって同じ事をする、それは…… 右手を上げて、人差し指で耳の上、そう、あるはずの長い髪を絡ませようとしたんだ。 だけどそこに髪はなくて、指は宙を空回り。 『…………あ……』 そうだ、忘れてた……髪……無いんだ、切られたの、ぜんぶ、根元から、ウチの髪、何年も、大事に、大事に伸ばしたウチの髪はもう________ _________ぃゃ……ぃや、いや……ぁぁぁ…… 『ぁぁああああああああああああああ!!!』 吐き気がする、胃液が喉までせり上がる、 髪、髪……! ”あのヒト” が切ったの、ジーナの手を使って、ザクザクと、倒れて動けないウチ、頭を乱暴に掴まれて、それでぜんぶ、ぜんぶ……! ポケットに鏡がある、だけど怖くて視る事が出来ない。 代わり、両手で頭を触ってみると、短い毛先がチクチクと刺さった。 こんな感触は初めてだし、所々長い髪もまだらに残って、それが余計に悲しくて、今のウチはすごい頭になってるんだと改めて思ったら、叫び声が止まらなかった。 『いやぁああああ!!』 叫びながら頭を触る、その感触にまた叫ぶ、それを延々繰り返す、呼吸がさらに浅くなり、視界が涙で深く歪む、星の光が溶けて滲んで線になる、悲しい、怖い、辛い嫌だ悔しいパパママジーナ行きたい大学将来の夢これから逢う好きな人結婚したらジーナとはまたお隣でずっと一緒にずっと笑って年を取ってそれでも一緒で笑って笑って笑って________
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