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アパートまでの短い道のりを笑いで埋め尽くした僕達は、ふたたび敷地内に車を停めた。
「ユリ、荷物はこれだけか?」
トランクルームからユリちゃんのキャリーバックを取り出すと、社長は肩にそれを担いだ。
「清水さん、私、自分で持てますから!」
恐縮して慌てるユリちゃんに社長が振り向くと、
「あぁ? いいよ軽いし。もう1個なんか袋持ってんじゃん。それ持って先に玄関開けてくれよ。そこまで運んでやるからさ。たぶん部屋の中にはユリの母ちゃんと婆ちゃんとウチのジジィが一緒に待ってる。俺らはジジィだけ回収して帰るからよ。あとは家族水入らずでやってくれや」
「そっか……部屋で……ママが待ってる……ママに会えるんだ、……緊張するな」
「緊張か、ま、そーだよな。だって11年振りなんだろ?」
「はい、」
小さな声でそう呟くと、ユリちゃんはそのままモジモジと立ち尽くし動けなくなってしまった。
ついでにお父さんも落ち着かない様子でユリちゃんのまわりをウロついている。
なんともいえない緊張感と沈黙の中、ようやく口を開いたのはお父さんだった。
『……誠、岡村、おまえら、甘いもん好きか? ちょっと寄ってイチゴのケィキ食べてかねぇか? どうせおまえらヒマなんだろ? このあと用事もねぇんだろ? ユリが持ってるその袋はよ、中身はケィキなんだ。ああ、その、なんだ。美味いと思うぞ? なんたって店で1番大きくて、1番高いのを買ったんだから、』
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