第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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冷たい目をして黙ったまんま、白雪さんは “あのヒト” を視続ける。 顎を引いて胸を張り、両手はダラリと下げてるけれど握る拳は硬そうだ。 視つめられる “あのヒト” は、チッと大きく舌打ちしてから低い声を吐き出した。 【……気取ってんじゃないよ、なにが ”教えてくださる?” だ。あんた光道(こうどう)なんだろ? 知ってんだろ? あたしの所に光の道なんて来ない、来るのは闇の道だけだ。そんな事より……白雪だっけ? あんた光道(こうどう)(おさ)だって言ってたよな。そんなオエライさんがなんでこんな所に来るんだよ。ジーナの事も知ってるみたいだし……一体なんなの?】 【私がここに来た一番の理由、それは友人を助ける為です】 【友人? ジーナの事か……?】 【いいえ。ジーナさんを助けるつもりだけど、私とジーナさんに面識はないわ】 【はぁ? じゃあ友人って誰だよ。誰だか知らないけど、あんた、面識もない小娘の為にワザワザ来たってのか? へぇ、光道(こうどう)ってもの暇なんだねぇ。それともアレか? オエライさんは机にふんぞり返ってさ、仕事は全部下っ端にやらせてるのか、だから暇でやる事が無くて、…………いや、待て。もしかして友人っていうのは……マジョリカの事か?】 【ええ、マジョリカさんよ】 白雪さんがウチを友人だと言った時、“あのヒト” は明らかに空気を変えた。 乱杭歯をギリギリさせて、左右で違う大きさの両目をカッと視開いて、そして、大声で怒鳴ったの。 【マジョリカと友人? 白雪が? 光道(こうどう)のオエライさんとあの小娘が友人だって言うのかっ!? チッ! いい加減な事言うな! この10年、あたしはずっとマジョリカ達の傍にいたんだ! その間、白雪を視た事は1度もない!】 【それはそうでしょう。私達が知り合ったのはついさっきですもの。彼女はとても優しい子。私、すぐに好きになってしまったわ。だから私からお願いしたの、友人になってほしいって】 少し前の出来事だ。 その事を淡々と、白雪さんが話した直後。 “あのヒト” は、鋭い爪で自分自身の顔や頭を掻きむしり、狂ったような大声をあげ……ああ……嫌……むしった肌が抉れてる、傷に沿って血が流れ、爪の先も真っ赤になってる…… “あのヒト” は、流れる血を拭う事もしなかった。 白雪さんを呪うように睨みつけ、そしてウチの事を話し出したんだ。 【………………出たよ……またか……あの小娘はいつだってそうだ。ただそこにいるだけ、努力もしない、自分じゃ何もしない!! 泣けば良いと思ってる、そうすりゃ周りが助けてくれると思ってるんだ!! いつもいつもいつだって、こんな小さなガキの頃からそうだった!! あの小娘は自分の価値を知ってる、しおらしいのは口だけさ!! わかっちゃいたけど、まさか光道(こうどう)のオエライさんまで丸め込むとはね。まったくとんでもない売女(ばいた)だよ!!】 ひ……酷い……ウチ……そんなつもりはないって……さっきだって言ったのに……ウチの事が嫌いなんだろうけど、そこまで言われなくちゃいけないの? 悲しくて辛くてたまらなかった。 涙でモニターが滲む、2人の輪郭が大きく歪む、……とその時だった。 【あなた、とっても下品だわ】 抑揚のない声が聞こえた。 ガラス細工の鈴の音の、綺麗で怒気を含んだ声が……その2秒後、ひどく鈍い音がした、 と思ったら____ ____ “あのヒト” が地面に倒れ込んでいたんだ。
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