第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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酷い言葉が悲しくて、涙で視界が歪んだ数秒後。 今、 “あのヒト” が倒れてる。 な、なにがあったの……? ウチはそれが知りたくて、涙を拭いてモニターに向き直る……と、そこには…… 地面に倒れて呻く “あのヒト” 。 すぐ傍には白雪さんが立っていた。 腕はダラリとさげたまま、握る拳は硬そうで、……そう、ここまではさっき一緒。 だけどウチは気付いてしまった。 よく視れば左の拳がまだらに赤い。 あれは……血じゃないのかな……? だけど、白雪さんが怪我をした……という訳ではなさそうだ。 となると、きっと “あのヒト” のだ。 ウチを悪く言いながら、自分の顔を、頭を、抉るように掻きむしり、そこから血を流してたもの。 【……いって……このアマ……いきなり何すんだよ、】 毒づいた掠れ声。 “あのヒト” は頭を軽く振りながら、ゆっくりと顔を上げた。 そのまわりには、小さな小石を散らしたような、何かがいくつも落ちている。 あれはなに……? 気になってよく視れば……あれは…………歯だ。 折れたであろう“あのヒト”の乱杭歯が散乱していた。 半拍遅れて。 それに気付いた “あのヒト” は、混乱したような悲鳴を上げた。 そして両手で散らばる歯を搔き集め、あろうことか、土ごと飲んでしまったの。 嘘でしょ……歯が折れたのは可哀そうだと思うけど……それを飲むだなんて……理解が出来ないよ…… 白雪さんはその様子を冷たく視下ろし、容赦なくこう言った。 【立ちなさい】 言われた方は動揺を隠せない。 腕を着き、上半身だけなんとか起こし、 【……いや、ちょっと待ってくれ、歯が……あたしの歯が折れて……チッ……お、おい! あんた良いのか……!? こんな暴力……仮にも黄泉の国の人間だろうが……!】 狼狽えながら ”暴力だ” と訴える、が、白雪さんの返す言葉は変わらない。 【立ちなさい】 【……だから! 霊体(からだ)が痛いんだよ! あんたがいきなり殴るから! な、なに(いか)ってんだよ、あ、あたし、あんたに何かした!? し、してないだろ……? そ、それとも、マジョリカを悪く言ったから(いか)ってんのか? ……な、なんだよ……そんな目で視るなよ……】 地面にお尻を着けたまま、ズリズリと後ずさる “あのヒト” は、さっきまでの勢いがなくなった。 情けない声を上げ逃げようとしているの。 白雪さんは立ったまんまで動こうとはしないけど、ジッと視つめる黒い瞳は圧があり、モニター越しのウチでさえ緊張を強いられる。 【…………あなた、何か勘違いをしてるんじゃなくて? 】 圧を放つ白雪さんが溜息交じりに問いかけた。 “あのヒト” は訳が分からずしどろもどろになっていて、いつまで経っても黙っているので、答えを聞かずに続けて言った。 【私はね、あなたに ”お願い” をしてるんじゃない、”命令” をしているの。5秒で理解なさい。さあ、もう一度だけ言うわ。今すぐ立ちなさい!!】
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