第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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【ああぁぁぁあぁぁあああぁぁああああああ!!!】 “あのヒト”は絶叫しながら駆け出した。 身勝手すぎる不平不満を白雪さんにぶつけるために、握った拳を躊躇う事なく振り上げたんだ。 『危ない!』 モニター越しに思わず声が出た、次の瞬間。 白雪さんは真正面。 片手で拳を受け止めた。 そして、 【憐れな(ひと)、】 短く呟き、受けた拳を離さずそのまま握ったの。 その途端、“あのヒト” の動きが止まった。 眉間に深くシワを寄せ、苦痛の言葉を口から漏らす。 【……()ッ……!】 ギリギリと、宇宙(ここ)まで音が聞こえてきそうな強い力が、拳をジワジワ潰しにかかった。 “あのヒト”は言葉にならない悪態をつきながら、白雪さんから逃れようと必死になる……が、力の差がありすぎるのか、逃れる事は叶わずにいた。 【あなた、あまりにも勝手だわ】 長身の白雪さんが、侮蔑の色を隠す事無く “あのヒト” を視下ろした。 その眼光は刺すように鋭くて、握った拳も離さない。 【あなたの容姿がどのようなものであろうと、あなたがいかなる過去や事情を抱えてようと、マジョリカさんにはまったく関係のない話。それなのに筋の通らない難癖をつけ、長きに渡り憑りついた挙句、命まで奪ってしまった】 【……()……白雪……離せ、クソが…………チッ、確かにあたしの醜さとマジョリカは関係ないかもしれない。だけどね、そんな事はどうでもいいんだよ。気に入らないんだ……顔しか取り柄の無い小娘が、努力も無しにちやほやされるのがさぁ! ムカついて仕方がない、傷付けたくてたまらないんだよ!】 【はぁ……最悪だわ。努力をしてないですって? 何もしないでちやほやされるですって? あなたは10年も憑りついて、マジョリカさんの何を視てきたのかしら。彼女がまわりに愛されるのは、ただ単に美しいからじゃない。優しい心を持ってるからよ】 【ふん、そんなのはポーズさ、優しい振りをしてるだけ。白雪も騙されたんだ。か弱そうな泣き真似にね】 【違う、分かってない。真逆だわ。彼女は私が現世(ここ)に来る事を必死になって止めたのよ。危ないからと、心配だからと、最後の最後までジーナさんを自分で助けるつもりでいたわ。あなたの暴力も覚悟の上でね。その必死さが私を動かした、彼女を助けてあげたいと心から思ったの】 【……どうだかね、それだってきっと演技さ。……ああぁぁあああチクショォォ……! あたしだってこんな容姿じゃなければ……! やっぱりマジョリカはずるいよ、不公平だよ、】 【ずるい? 不公平? それも違う。 あなた、最初からその姿じゃなかったはずよ。その容姿はあなた自身のせいよね? あなた……過去に他人の光る道を奪おうとしたんじゃなくて?】
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