第六章 霊媒師OJT-2

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まさか、そしてしかもこのタイミングでお父さんからケーキのお誘いがあるとは思わなかったけど、よく見ればユリちゃんの持っている大きな包み袋、そこには”sweets&cafe☆bebe”(スィーツ アンド カフェ ベベ)の文字が印刷されている。 あ、あれは……! それを見た瞬間、僕は平常心を失った。 「あーっ! ベベのケーキじゃないですか! 僕、ベベのイチゴケーキ大好きです! 甘さ控えめの上品な味がたまらない。僕の家の近所にはカフェと併設になってる店舗があって、よくそこにケーキを食べに行くくらいトリコなんですっ!」 乱心状態で、はしたなくも大声を上げてしまった僕に、お父さんが満面の笑みで詰め寄ってきた。 『お、そうなのか? ここのケィキは美味いのか、そらぁ良かった。なに、貴子がよ、昔からイチゴがのったケィキが好きでよ、それで途中土産に買ってきたんだ。東京のケィキ屋なんてよく知らねぇけど、どうやら当たりだったみてぇだな。岡村ぁ、そんなにこのケィキが好きなら遠慮はいらねぇ! 食ってけ! もちろん誠も一緒にな!』 僕の肩に鋼鉄のごとく硬い腕をまわし、がっしりとホールドして離さないお父さん。 そんなに食いてぇなら仕方ねぇなぁと豪快に笑っているけど、肩越しに伝わる微かな震えに僕はハッとした。 お父さん、強がっているけど田所さんとの再会に緊張してるんだ。 もしかして僕らに一緒にいてほしいんじゃないだろうか……? 本当は社長が言った通り、田所さんやお母さんに御挨拶して、少しだけ再会に立ち会ったら先代を連れて会社に戻るつもりだったけど状況は変わった。 こんなに不安そうなお父さんを残して帰る訳にはいかないじゃないか。 それなら僕が言うべき事はこれしかない。 「お父さん、ありがとうございます。ちょうど甘いものが食べたかったんです。ね、社長、ベベのケーキは男性にも人気があるんですよ。だから一緒にご馳走になりませんか?」 社長は僕の真剣な訴えと、お父さんの縋るような表情にフッと息を漏らすとこう言った。 「ったく、爺さんがそんなガチガチじゃ仕方ねぇな、付き合ってやるよ。ついでに幽霊がどうやって食事をするのか、エイミーにその説明もできるしな。てことで話は決まった。ユリ、鍵開けろ。みんなでケーキパーティー始めようぜ!」
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