第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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【だから今度はしくじらない、絶対にうまくやる(・・・・・)、】 言うが早いか “あのヒト” は、右の手首を反対側の左手で、掴むと同時に力まかせにねじ切った。 途端2人は分断される、白雪さんの手の中に “あのヒト” の拳だけが取り残された。 白雪さんから切り離されて自由になった “あのヒト” は、間髪入れずにジーナに向かって走り出した。 その映像が目に飛び込んで、ウチの血の気が引いたんだ。 『やめて!! 止まって!!』 思わず叫んだ、叫ばずにはいられない。 目的が明確すぎる、あれはジーナを乗っ取るつもりだ。 心臓がバクバクいって、ジーナ逃げてと何度も言った、だけど声は届かない、宇宙(ここ)からじゃウチの声は聞こえない、お願いやめて、乗っ取りなんて意味がない、魂が混ざるだけ、そうなればジーナは消えてしまうの、大好きな幼馴染、姉妹のように大事なジーナ、お願い、お願い____ 『お願い白雪さん、ジーナを助けて!』 祈る想いで叫んだその時。 モニター越しに、白雪さんと目が合った気がした。 偶然なのかどうなのか、本当のところは分からない、けれど次の瞬間。 白雪さんは地を蹴り一気に前に飛ぶと、“あのヒト” の歪んだ背中にピタリとついた。 そして、 【行かせないわ】 それは静かな、だけど圧の声だった。 言われてしまった “あのヒト” は、ビクッと身体を震わせて、振り返ろうと首を後ろに捻りかけたものの……途中で止まった、その耳元に白雪さんが口を寄せたからだ。 【…………………………、………、………………、】 え……? なんだろう……? 白雪さん……何か……言ってる? その声は小さくてウチの耳には聞こえてこない。 聞こえているのは“あのヒト” だけだ。 一体……なにを話してるんだろう……? …… ………… ……………… 5分……ううん、もっとかもしれない。 話が終わったのか、白雪さんは耳元からゆっくりと口を離した。 直後、あれだけ悪態をつき、あれだけジーナを狙っていた “あのヒト” が、崩れるようにその場に座り込んだんだ。 その様子を白雪さんは、これ以上無い冷たい瞳で視下ろしている。 それから少し。 まるで泣いてるジーナのように、地面に伏せる “あのヒト” は肩を震わせ嗚咽を漏らし、顔を上げる気配がない。 いつまでそうしているのだろう、何を聞いてそうなったんだろう。 確かめる術もなく、モニターを視続ける……と、白雪さんが一歩前に踏み出した。 【立ちなさい】 さっきと同じ、倒れ込む “あのヒト” に白雪さんは立つように言った。 【…………また、命令か】 【そう、これは命令。今すぐ立ちなさい】 命令された “あのヒト” は、逆らう気力が無いようで、ノロノロと立ち上がったんだ。
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