第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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【そう、立って背筋を伸ばすの。最期くらいは美しくありなさい】 凛とした表情で、白雪さんは ”最期くらい” と言ったんだ、きっと……そういう事なのだろうな。 ウチはなんとも言えない気持ちになって、ただただモニターを視つめていた。 【…………闇の道を呼ぶのか?】 覇気のない “あのヒト” の声。 だけど微かに怯えが視える、悪霊の為の道だもの。 よく分からないけど、それは余程に恐ろしいのだろう。 【いいえ、今回闇の道は呼ばないわ。ここに呼べばルート的にマジョリカさんの隣に並列してしまう。あんなものを彼女に視せる訳にはいかないもの。だから私が滅します。あなたと、あなたの罪も一緒にね】 闇の道を呼ばない、確かに言ったその言葉に、“あのヒト” は、安堵のため息をついた。 【……そう、良かった……、昔何度も視たんだ。あたしみたいに彷徨う霊が、闇の道に捕らわれる所を。あんな道、絶対に乗りたくないと思ってた。今までなんとか逃げてきたんだ。危ない時は別の霊を蹴り飛ばし、あたしの代わりに差し出した。……理由はともあれ、闇の道(あれ)が来ないのはありがたいよ】 もう……抵抗する気も逃げる気もないみたい。 それどころか ”ありがたい” とまで言っている。 急に変わったな、こんなに変わったのは白雪さんのせいなのかな? さっき何かを言っていた、それから態度が変わったの。 【あなたの為に闇の道を呼ばないのではないわ、マジョリカさんの為よ。それでも、あなたが感謝の意を示すだなんてね。少しは良心が残っているのかしら】 【さぁ、どうだかね。ただもう気力がなくなった。あんたにさっき言われた事……あたしは一体なんの為にこの10年……あんなの聞いたらすべてがどうでも良くなった、】 【そう、】 【そうさ。だからもういい。さっさとやってくれ】 “あのヒト” は、背筋を伸ばした起立の姿勢で目を閉じた。 分かったわ____白雪さんはそう答えると、筋肉質な大きな身体を右に左にひねり出す。 肩を回し首を回し、その場で数度のジャンプをし、そして、さっきウチに視せたように、肩を丸めて左右の拳は顔の前、ボクサーみたいな構えを取った。 【最期、何か言い残したい事は?】 【ないね。あたしの親はクソで、兄弟も男達も、みんな揃ってあたしを傷付ける事しかしなかった。言い残したい事なんて何もない。でも……そうだな、白雪に一言だけ。今日であたしがいなくなれば、小娘二人はもう安心……なんて思うな。あたし以外に悪い(ヤツ)はごまんといる。だからこれから守ってやってくれ】
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