第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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【じゃあな、これで行くけど追いかけようとは思うなよ。今のあたしはジーナと繋がってる、囁けば何でもあたしの言いりなりさ。ハサミは消されてしまったけど、そんなモノが無くたって、ひひひ……舌を噛ませる事も出来るんだ】 笑いを含んだアイツの声。 曇った空に身体を浮かせ、高い位置から地上を視下ろす。 その態度はさっきまでの弱々しさから一変し、勝者ぶってふてぶてしい。 結局アイツの思い通りだ。 ジーナを人質に逃げるつもりだ。 悔しい…、すごく悔しいよ……ああでも…… ウチなんかより、白雪さんはもっともっと悔しいはずだ。 信じたのに、あんなヤツでも最後の望みを聞いてあげようとしたのに、なのに踏みにじられたんだ。 白雪さんはジーナの傍を離れずに、黙って空を視上げていた。 膝を着き、下げた両手は地面に置かれ、とかれた指が土と草に触れている。 拳……さっきみたいに握らないんだな。 そうだよね……だってこれじゃ手が出せない。 出せばジーナに危険が及ぶ、操られ、何をされるか分からない。 ビュッと風切る音だけ残して、笑うアイツは空の彼方に消え去った。 残された白雪さんは、倒れるジーナの頬に手をあて ”ごめんね” と呟くと、音もなく立ち上がる。 そして、もう一度空を視た。 その顔はゾクッとするほど冷たくて、瞳からは強い怒りが溢れ出していた。 白雪さんは大きな歩幅で地を歩き、ジーナから距離を取る。 途中で何かを拾ったけれど、大きな右手に隠れてしまってそれが何だか分からない。 何をする気だろう、アイツを探しに行くのかな、 そんな疑問が頭をよぎるが動く気配はまったく無くて、代わりおもむろに。 白雪さんは腕を上げると、左の手指をガキンと鳴らした、直後。 ブワッ!! 鳴らした手指を中心に、真白な光が放射の形に激しく伸びる。 モニター越しでも眩しいくらいの強光は、白雪さんの輪郭を消し去った。 その光が徐々に弱まり、再び輪郭が現れた時。 白雪さんの手には大きな弓が握られていた。 弓なんて一体どこから____ 沸いた疑問は一旦置いて、白雪さんを視続けた。 何をするの? どうするの? これから一体何が起こるの? 白雪さんは足を肩幅、目線は天に。 弓をクルリと回転させて、慣れた様子で斜めに構える。 そしてここで、白雪さんがさっき拾った何かの(・・・)正体が知れた。 あれは千切れた手だ……白雪さんと揉み合って、自ら切り落としたアイツの”拳” 。 白雪さんは拾った ”拳” を弓と弦と、その両方にあてた。 すると拳はアイツの霊体(からだ)と同じ色、禍々しい赤黒の矢へと姿を変えた。 ギリギリと弓を引く。 弦が限界まで引っ張られ、赤黒の、まるでアイツの分身みたいな矢が天に____今放たれた! ゴッ!! 灰の雲を切り裂くように。 矢は光の速さで宙を飛ぶ。 それを目で追う白雪さんは、 【絶対に逃がさない。”追いかけるな” ですって? そんな事はしない、あなたが此処に来るの!】 力強くそう言った。
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