第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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空高くに矢が消えて、僅か数分後の事だった。 ヒュン……ヒュゥゥゥゥゥウウウウウ________ 遠くから風を切る音。 それがだんだん近づいてきて…… ドォォォンッ!!! 大きな音と土煙が同時に上がり、モニターの端から端まで薄茶に曇る。 かろうじて視えるのは……白雪さんの黒い影、それと、その足元に潰れる小山のような影だけだった。 一体何が起きたのか。 唖然として視ていると、覆う煙がゆっくりと晴れ始めた。 その中で、黒い小山に色が戻って正体が知れてくる。 それは赤黒の大きな矢に霊体(からだ)を貫かれ、地面に固定されるアイツの姿だった。 背中の……あれは白雪さんが放った矢だ。 どういう事……? あの矢がアイツを捕まえたの……? そしてあの矢が連れて戻ってきた……? 信じられない……一体どうしてそんな事が出来るのか……分からない、もう分からない事だらけだ。 だけどきっと、そういう事なんだ。 どうしてなのか、それは後で白雪さんに聞けばいい。 理由はともあれ事実として、アイツは逃げきる事が出来なかったんだ。 【…………なにが……あった……?】 呻くようなアイツの声。 自分に何が起きたのか、どうやら理解出来ずにいるらしい。 今のアイツはうつ伏せた体勢で、背中から矢を生やしている。 長さの異なる腕を地に着け、なんとか上げたその顔は、落ちた時の衝撃なのか大きく歪んでいた。 だけど直後、その顔はさらに歪む事になる。 なぜなら上げた視線の先、そこに出し抜いたはずの白雪さんがいたからだ。 アイツの声があからさまに震え出す。 【……おま……白雪……なんで……】 白雪さんは射る目で視下ろしこう言った。 【あなた、救いようがないわね】 すごい圧……息が苦しくなるくらい。 さっきも圧があったけど比べ物にならないよ。 【……! ジーナがいる、白雪も……あたし、……戻されたのか……? この矢か……ウソだろ……? こんなに早く……クショ……チクショ……チクショオォォォォッ!!】 ジーナと白雪さんがここにいる____その事で状況を理解したアイツは、地面を叩いて絶叫した。 同時、自分を刺す矢を抜く為に、もがいて足掻いて必死になった……が、ビクともしない。 這った地で。 目の前にはゴツ過ぎる軍ブーツ。 白雪さんがその気になれば、いつだって蹴り上げられる至近距離。 アイツは早くもパニックを起こしていた。 【ま、ま、ま、待ってくれ! 聞いてくれ、悪気はなかったんだ! 滅されたくなかった、怖くなったんだ、そう、怖かったんだよ、なぁ白雪、あたしの気持ち、少しは分かるだろう? あ……い、いや、その、すみません、本当に、あたし、待って、滅さないで、】 地面に固く縫い付けられて。 動かせない霊体(からだ)の代わりに何度も額を地面に擦り、謝るアイツは痛々しいほど手のひらを返してる。 白雪さんは、そんなアイツをただ視るだけで、見苦しい言い訳に一切返事はしなかった。 一通りの言い訳を言いつくし、アイツが言葉を止めた時。 ようやく白雪さんが口を開いた。
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