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ユリちゃんの鍵を持つ手が震えていた。
鍵穴に挿しこんでクルリと回転させる。
それだけの作業に数分はかかったのではないだろうか。
ガチャリと鈍い金属音。
ユリちゃんはお父さんに振り返る。
僕の位置からお父さんの表情はわからないが、大きな背中を丸めユリちゃんの耳元でなにか言っているようだった。
ユリちゃんは何度か小さく頷くとふわりと笑顔になり「開けるね」と、誰に言うでもないことわりを入れ、ゆっくりとドア開けた。
『……ユリちゃん、』
開けた玄関先に立っていたのは、青地に白い鈴蘭の花が描かれたエプロン姿。
田所さんのお母さんだった。
『ここまで遠かったでしょう? 無事に着いてよかったわ。……ああ、婆ちゃん、ユリちゃんにまた会う事ができて本当に嬉しい、さあ、こっちにいらっしゃい。顔を良く見せて』
「うそ……婆ちゃん?……婆ちゃん……婆ちゃん……!」
大好きな祖母との1年振りの再会に、ユリちゃんは子供のように泣きじゃくった。
そんな孫娘にあらあらと困ったような笑顔を向けるお母さんもまた泣いていた。
『ユリちゃん……元気だった? この1年風邪ひかなかった? あなた風邪引くと熱が出ちゃうから心配だったのよ』
お母さんは優しく孫娘の頬に手をあてた。
拭ってやりたいであろう、孫の涙はお母さんの指先を通過して床に落ちる。
「ば、婆ちゃん、わ、私ね、大丈夫だよ、風邪引かなかったよ。去年婆ちゃんが死んで、爺ちゃんと2人になって、私が寂しいといけないからって、爺ちゃんすごく頑張ってくれたんだよ。ゴハンだって週末は爺ちゃんが作ってくれたんだ。風邪引かないようにってニンニクいっぱい入った餃子とか、豚肉と野菜がいっぱい入った豚汁とか、見た目はすごいけど美味しいの、すごく美味しかったの。毎日たくさん話して、トラックに乗せてもらって一緒に山も行った。だから風邪引くヒマもなかったんだ。婆ちゃんが死んじゃって辛いのは爺ちゃんも同じなのに……なのに……すごく大事にしてもらったから、」
お母さんは涙でぐしゃぐしゃのユリちゃんの頭を撫でるように手をかざし、柔らかな笑顔をお父さんに向けた。
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