第六章 霊媒師OJT-2

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『お爺さん、先に死んじゃってごめんなさいねぇ。でもね、私、なにも心配してなかったんですよ。お爺さんなら私がいなくなってもユリちゃんを任せられるって信じてましたから。でも……ちょっと早かったですわねぇ。少なくてもあと10年は生きていてほしかったわぁ。でも……こればっかりは仕方ないわね。寿命には逆らえませんもの』 心なしか顔が赤いのは気のせい……でもなさそうなお父さんは指先で鼻の下を高速で掻きながら、 『俺だってよ、婆さんが死んで、せめてユリが嫁に行くまでは生きる予定だったんだ。けどよ……クソッ! あれからたたった1年で死んじまった。俺は男だからよ、婆さんみてぇな美味いメシも作れねぇ。年頃の女の子が喜ぶ物もわからねぇ。だけどよ、俺にとってユリは宝だ。貴子と同じくれぇ大事な宝だ。男だから、ジジイだから、そんな言い訳でなにもできねぇなんてこたぁ言いたくなかった。俺なりに考えてユリが寂しくねぇように、惨めな思いをさせねぇように頑張ってきたつもりだ。少しでもユリが幸せだったと思ってくれてりゃいいんだがな……』 地声の大きなお父さんだが、最後の方は細切れに弱々しい。 そこにユリちゃんが怒ったように割って入ってきた。 「爺ちゃんなに言ってるの! 幸せにきまってるでしょ! 幸せなのはここ1年だけじゃない! 11年前、ママが死んで一人ぼっちになった私を迎えに来てくれた日からずっと幸せだった! 私、ママが死んじゃって、それから2年くらい声が出なくなって……まわりの人達から口もきけない厄介者は施設に入れた方がいいって言われるたびに爺ちゃんも婆ちゃんも、ユリはどこにもやらないって怒ってくれたじゃない。私が夜にうなされて眠れない時は3人で川の字で眠ったじゃない。庭にブランコ作ってくれたじゃない。いつだって私の話をたくさん聞いてくれたじゃない。私、すごく愛されてるって思ったよ。すごく幸せだって思ったよ。爺ちゃんと婆ちゃんの孫で本当に良かったって思ったよ」 はぁはぁと息荒く一気に喋ったユリちゃんは、頬を真っ赤に染めて泣いていた。 そんなユリちゃんを、お父さんもお母さんも時が止まったように見つめていたが、やがてお父さんの膝が折れ玄関に崩れると、滝のような涙を流し声を絞り出した。
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