第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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顔を洗ってタオルで拭いて、鏡を視ながら髪を丁寧にとかす。 宇宙色の髪の毛は、とかさなくてもサラサラで、寝て起きたのにクセがどこにもついてない。 それでもゆっくり時間をかけて……うん、だってタッキーさんに言われたもの。 毎朝髪をキレイにとかして、鏡に向かって笑えって。 そうやって続ければ辛い事も忘れちゃう、ハッピーになれるんだと言っていた。 だからニッコリ笑うんだ。 身支度を整えてリビングに向かった。 リビングと言ったって、バラカスサイズなものだからココはまるで体育館だ。 高い天井、大きな窓に大きな扉、床一面には芝生が生えられ裸足で歩くと気持ちが良い。 『お、来たか小娘。朝メシにしよう』 朝ごはんか……黄泉に来てからまともに食べてないなぁ。 そもそも食欲がないの、毎晩悪夢で寝不足だから食べる気にならないんだ。 でもな、今日からお世話になる訳だし、ヨソのオウチで出されたものを食べないなんて、そんなのママに叱られる。 頑張って食べよう。 だけど全部は無理かもしれない……ああ、どうしよう。 気が重い、ウチは芝生をノソノソ歩く。 朝ごはん……いっそ笹の葉ならいいな。 意外とおいしかったし、それなら食べられるかも……なんて思っていたのに。 広すぎるリビング、ようやくテーブルに着いた。 同時、そこにある朝ごはんを視た瞬間、ウチは信じられない気持ちになった。 『わぁ! すごい!』 思わず声が大きくなった。 丸い形の天板に所狭しとご馳走が並んでる。 しかもウチの好きなものばっかりだ。 シャッキシャキのグリーンサラダは、レタスにトマト、ピーマンにブロッコリー、ドレッシングはシーザーだ(一番好きなドレッシング)。 ふんわりのオムレツ、塩コショウのソーセージ(シンプルなのが好き) 、コーンスープは刻んだパセリが鮮やかで、ヨーグルトにはハチミツまで垂らしてあるの(どっちも好きっ)。 そして……なんと言ってもフカフカのパンケーキがある!(ファビュラスー!) 『すごい! すごいすごい! ねぇ、これみんなバラカスが作ったの!?』 大興奮で聞いてみた。 するとパンダは得意な顔で、 『ああ、俺が作った。言っとくが爪を鳴らして出したんじゃねぇぞ。ぜんぶ手作りだ』 ケケケと胸を張ったんだ。 『すごーーーい! ご馳走だよ! すんごくおいしそう! それにね、ここにあるのぜーーーんぶウチの好きなものなの! なんで知ってるの? それとも偶然?』 『これだけのモノが偶然な訳ねぇだろ。白雪から聞いたんだ、マジョリカの好物をよ』 『白雪ちゃんから……』 『そう、白雪(あいつ)はよ、マジョリカが心配なんだ。黄泉に来てシェアハウスには入らねぇ、野っぱらで独り暮らし、おまけに夜泣きときたもんだ。心配もすんだろうよ』 『そか……』 『そうだ。それにおまえ、まともにメシ食ってねぇだろ。ま、俺達はもうくたばってるからメシなんざ食わなくたって、これ以上死にはしねぇ。でもな、白雪にしてみりゃあ、メシが食えねぇ状態だってのが心配なんだ』 『……うん、ごめん』 『なぁ、小娘。おまえ、白雪が好きか?』 『好き、……大好き』 『そうか。じゃあよ、とりあえずメシを食え。マジョリカがたらふく食ったら、白雪は大喜びするだろうからよ』 『そ、そうかな?』 『そうだ』 『…………バラカスも嬉しい?』 『俺か? そりゃあな、嬉しいさ』 『ふぅん……ふぅん、そか……そっか。……うん、ウチごはん食べる。ここにあるのぜーんぶ食べる』 『ぜんぶ? 言ったな? じゃあ食え! ケケケッ、残すなよ!』
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