第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

251/285
前へ
/2550ページ
次へ
『ま、とりあえず軽く流すか』 鼻歌交じりの巨大なパンダはリズミカルに爪を鳴らす。 パチンパチンと音がするたび、画面の中の景色も変わる。 『わぁ! キレイ!』 さっきまでの街並みが消え、画面の中には雪化粧の山脈が現れた。 ふもとには湖が広がって、雪山が上下反転で映り込む。 その次は夜空に垂れる光のカーテン、緑と青と赤紫と、色とりどりのグラデーションが美しい、オーロラの絶景だ。 すごい……すごいすごい……! 『マジョリカは外国に行ったコトはあるのか?』 爪は休まず画面をパチパチ変えながら、前を視るバラカスが聞いてきた。 『ううん、ないよ。本当はね、大学に受かったら、ご褒美に好きな国に連れてってくれるってパパが言ってたの。ウチの家族とジーナの家族と一緒に、高校の卒業旅行も兼ねてね。……行きたかったなぁ。でも……旅行どころか受験の前に死んじゃった、』 約束、してたんだ。 急に決めたコトじゃなく、高校に入学した時からの約束だった。 ウチもジーナも楽しみにしてたのにな。 『そうか。じゃあよ、今度また出かけるか。黄泉の国はマジョリカが思ってる以上に広いんだ。遊ぶところも綺麗なところも沢山ある。100年あっても回り切れねぇくらいにな』 『そうなの? 行く! 連れてって! バラカスと白雪ちゃんと3人で行きたいよ!』 『ああ、そうだな』 ニヤリと笑ったバラカスは、大きな両手を踊るみたいに上にあげ、パチンパチンと鳴らしまくってノリノリだ。 画面の中はゆっくりと変化して、自由の女神にエッフェル塔、タージマハルにモアイ像、ストーンヘンジにマウント富士と、いろんな景色を映し出す。 『すごいね! まるで世界一周旅行だ!』 『楽しいか?』 『うん!』 楽しいに決まってる、色んな景色がいっぱい視れる! パチン! パチンパチン! 今度はどこだろ? 楽しくて身を乗り出して画面を視ると、そこは普通の街並みだった。 都会でも田舎でもない、どこにでもあるような平凡な街。 夜なのか空は暗くて星は視えない。 道路には車がそこそこ走ってて、建ち並ぶお店には看板が光ってる。 書かれた文字はアルファベットと、それから……漢字だ。 もしかして中国? それとも日本? 『手元が狂ったな。地味な場所に繋げちまった。これじゃあ面白くねぇだろ。今変えてやるから、』 バラカスはそう言うと爪を掲げて鳴らそうとした、……んだけど、 『待って! 画面の右下視て、なんか……女の子が追われてるよ』
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2374人が本棚に入れています
本棚に追加