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『ま、とりあえず軽く流すか』
鼻歌交じりの巨大なパンダはリズミカルに爪を鳴らす。
パチンパチンと音がするたび、画面の中の景色も変わる。
『わぁ! キレイ!』
さっきまでの街並みが消え、画面の中には雪化粧の山脈が現れた。
ふもとには湖が広がって、雪山が上下反転で映り込む。
その次は夜空に垂れる光のカーテン、緑と青と赤紫と、色とりどりのグラデーションが美しい、オーロラの絶景だ。
すごい……すごいすごい……!
『マジョリカは外国に行ったコトはあるのか?』
爪は休まず画面をパチパチ変えながら、前を視るバラカスが聞いてきた。
『ううん、ないよ。本当はね、大学に受かったら、ご褒美に好きな国に連れてってくれるってパパが言ってたの。ウチの家族とジーナの家族と一緒に、高校の卒業旅行も兼ねてね。……行きたかったなぁ。でも……旅行どころか受験の前に死んじゃった、』
約束、してたんだ。
急に決めたコトじゃなく、高校に入学した時からの約束だった。
ウチもジーナも楽しみにしてたのにな。
『そうか。じゃあよ、今度また出かけるか。黄泉の国はマジョリカが思ってる以上に広いんだ。遊ぶところも綺麗なところも沢山ある。100年あっても回り切れねぇくらいにな』
『そうなの? 行く! 連れてって! バラカスと白雪ちゃんと3人で行きたいよ!』
『ああ、そうだな』
ニヤリと笑ったバラカスは、大きな両手を踊るみたいに上にあげ、パチンパチンと鳴らしまくってノリノリだ。
画面の中はゆっくりと変化して、自由の女神にエッフェル塔、タージマハルにモアイ像、ストーンヘンジにマウント富士と、いろんな景色を映し出す。
『すごいね! まるで世界一周旅行だ!』
『楽しいか?』
『うん!』
楽しいに決まってる、色んな景色がいっぱい視れる!
パチン! パチンパチン!
今度はどこだろ?
楽しくて身を乗り出して画面を視ると、そこは普通の街並みだった。
都会でも田舎でもない、どこにでもあるような平凡な街。
夜なのか空は暗くて星は視えない。
道路には車がそこそこ走ってて、建ち並ぶお店には看板が光ってる。
書かれた文字はアルファベットと、それから……漢字だ。
もしかして中国? それとも日本?
『手元が狂ったな。地味な場所に繋げちまった。これじゃあ面白くねぇだろ。今変えてやるから、』
バラカスはそう言うと爪を掲げて鳴らそうとした、……んだけど、
『待って! 画面の右下視て、なんか……女の子が追われてるよ』
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