第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『あ、あの子、強かったね』 画面から女の子が消え、ウチはようやく毛皮から手を離すコトが出来た。 良かった、心配したけどダイジョブだったよ。 というか……倒されちゃったあの人達こそ大丈夫だろうか? そっちもちょっぴり心配したけど、バラカス曰く『ヒト族はあれくれぇじゃあ死なねぇよ』とのコトなので、とりあえずはヨシとした。 『んじゃ、次いくぞ』 そう言ったバラカスは、爪を弾いて画面を変えた。 新たにそこに現れたのは、地面から空に向かって斜めに建ってる…… 『ピサの斜塔だ!』 わぁ! わぁわぁ! ピサだ! イタリアだ! イタリアが映ってる! ウチが生まれて育った国、馴染みのある建物は、視ただけで気持ちが上に向いてくる。 それからしばらく、映る景色はイタリアのあちこちだった。 赤いレンガが美しい、フェレンツェの歴史的美術都市。 水の都のベネチアにコロッセオの闘技場、トレビの泉にミラノにカプリにポンペイ遺跡____ ____ああ……綺麗だなぁ。 こんなに……綺麗だったんだんだな。 ほんの少し、数か月前までは。 モニター画面の向こう、……そう、ウチはあちら側(・・・・)にいた。 だけど今は、死んでしまってこちら側(・・・・)……黄泉の国にいる。 現世と黄泉。 立ってる場所が変わった事で、映る景色は違って視えた。 生きてた頃より鮮明で、涙が出るほど色鮮やかに視えるんだ。 『マジョリカ、』 低い声と大きな手、その2つが頭の上に降ってくる。 ウチはパンダに泣いてる事がバレないように、前髪を直す振りして涙を拭いた。 『マジョリカ、……なんだ、泣いてるのか』 あぅ……もうバレました。 『な、泣いてないよ。目にゴミが入っただけ』 泣いたコトとバレたコト、そう両方が恥ずかしくって、だからウチはごまかした。 なのにさ、このパンダときたらさ、 『目にゴミ? ケケ、ベタだな。その言い訳は『そうです、泣いてました』って言ってるようなモンだぞ。はっきり言ってバレバレだ』 と、デリカシーが足りてない。 『んも……なにそれ、にくたらしー!』 恥ずかしいのと頭にきたのとゴッチャになって、毛皮をグイグイ引っ張ると、 『パン! イテ! 小娘! ヤメロ!』 とパンダは大いに慌ててる。 やった、ウチの勝ちだー!  ____なんて。 後から思えばくだらないけど、おかげで涙は引っ込んだ。 慌てる様子がおかしくて、笑ってしまって泣くどころじゃなくなっちゃう。 バラカスはいつもこうだ。 ウチが泣くとあの手この手で笑わせる。 泣き止んで笑うまで、絶対絶対あきらめないの。 『毛皮を引っ張るなんざ しょうもねぇ小娘だ。泣き虫なのに負けず嫌い。おまけに素直でクソ可愛いときたもんだ。どんな育て方をしたらマジョリカが出来上がる? まったくよ、親の顔が視てみたいぜ!』 声高らかにバラカスはそう言った。 そして、 パチン! 鳴らした爪の音の後、モニター画面が瞬時に変わる。 色鮮やかな景色が消えて、代わり、そこに映るのは____ 『あ…………!』 ウチは言葉が出なかった。 画面の中には会いたくて会いたくてたまらない、パパとママが……映っていたのだ。
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