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『あ、あの子、強かったね』
画面から女の子が消え、ウチはようやく毛皮から手を離すコトが出来た。
良かった、心配したけどダイジョブだったよ。
というか……倒されちゃったあの人達こそ大丈夫だろうか?
そっちもちょっぴり心配したけど、バラカス曰く『ヒト族はあれくれぇじゃあ死なねぇよ』とのコトなので、とりあえずはヨシとした。
『んじゃ、次いくぞ』
そう言ったバラカスは、爪を弾いて画面を変えた。
新たにそこに現れたのは、地面から空に向かって斜めに建ってる……
『ピサの斜塔だ!』
わぁ! わぁわぁ!
ピサだ! イタリアだ! イタリアが映ってる!
ウチが生まれて育った国、馴染みのある建物は、視ただけで気持ちが上に向いてくる。
それからしばらく、映る景色はイタリアのあちこちだった。
赤いレンガが美しい、フェレンツェの歴史的美術都市。
水の都のベネチアにコロッセオの闘技場、トレビの泉にミラノにカプリにポンペイ遺跡____
____ああ……綺麗だなぁ。
こんなに……綺麗だったんだんだな。
ほんの少し、数か月前までは。
モニター画面の向こう、……そう、ウチはあちら側にいた。
だけど今は、死んでしまってこちら側……黄泉の国にいる。
現世と黄泉。
立ってる場所が変わった事で、映る景色は違って視えた。
生きてた頃より鮮明で、涙が出るほど色鮮やかに視えるんだ。
『マジョリカ、』
低い声と大きな手、その2つが頭の上に降ってくる。
ウチはパンダに泣いてる事がバレないように、前髪を直す振りして涙を拭いた。
『マジョリカ、……なんだ、泣いてるのか』
あぅ……もうバレました。
『な、泣いてないよ。目にゴミが入っただけ』
泣いたコトとバレたコト、そう両方が恥ずかしくって、だからウチはごまかした。
なのにさ、このパンダときたらさ、
『目にゴミ? ケケ、ベタだな。その言い訳は『そうです、泣いてました』って言ってるようなモンだぞ。はっきり言ってバレバレだ』
と、デリカシーが足りてない。
『んも……なにそれ、にくたらしー!』
恥ずかしいのと頭にきたのとゴッチャになって、毛皮をグイグイ引っ張ると、
『パン! イテ! 小娘! ヤメロ!』
とパンダは大いに慌ててる。
やった、ウチの勝ちだー!
____なんて。
後から思えばくだらないけど、おかげで涙は引っ込んだ。
慌てる様子がおかしくて、笑ってしまって泣くどころじゃなくなっちゃう。
バラカスはいつもこうだ。
ウチが泣くとあの手この手で笑わせる。
泣き止んで笑うまで、絶対絶対あきらめないの。
『毛皮を引っ張るなんざ しょうもねぇ小娘だ。泣き虫なのに負けず嫌い。おまけに素直でクソ可愛いときたもんだ。どんな育て方をしたらマジョリカが出来上がる? まったくよ、親の顔が視てみたいぜ!』
声高らかにバラカスはそう言った。
そして、
パチン!
鳴らした爪の音の後、モニター画面が瞬時に変わる。
色鮮やかな景色が消えて、代わり、そこに映るのは____
『あ…………!』
ウチは言葉が出なかった。
画面の中には会いたくて会いたくてたまらない、パパとママが……映っていたのだ。
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