第六章 霊媒師OJT-2

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開け放たれた引き戸の向こう。 暖かな陽射しが降りそそぐなにもない部屋の中。 生きていた頃のすべての悲しみと苦しみを手放して、この世とあの世のすべての幸せと喜びを湛えたような、愛だけがそこにある幸せの涙を流し、くしゃくしゃに笑う田所さんの姿があった。 『ユリ……』 擦れた声で娘の名を呼ぶ田所さんは、それ以上言葉が続かなかった。 きっと話したい事はたくさんあるのに、一生懸命笑おうとするのに、あとからあとから溢れる涙が嗚咽となって邪魔をする。 ユリちゃんは田所さんにとって唯一の生きる力であり希望だった。 自分の命と引き換えに守り切った大事な娘。 あの頃ほんの7才だった幼い娘。 小さな身体で母を庇い、あの男の前で両手を広げた強くて優しい娘。 逢いたくてふれたくてたまらなかった愛おしい娘。 そのユリちゃんが11年の時を経て、今、ここにいる。 田所さんは流れる涙はそのままに、娘の頬に触れようと細い腕を伸ばした。 その指先に引き寄せられるようにユリちゃんの脚が、一歩、また一歩と前に出る。 そして____くぐもった涙声で何度も何度もつっかえながら、 「……ママ……本当…に……? ママ……なの……? あぁ……でも…そうだ……ママ……ママ……! ママ! ママ!!」 最後は叫ぶように母親を呼ぶと小走りに駆け寄った。 11年前は田所さんの腰のあたりしかなかったユリちゃんは、今ではほとんど変わらない身長だ。 「ママ……ママ……逢いたかった……ずっとずっと逢いたかった……」
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