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次の日の朝。
『マジョ、ごめんな。今日は仕事が入ってるんだ。なるべく早く終わらすから待っててくれる?』
ジャッキはウチにそう言うと、早朝からリビングに籠った。
”霊媒師ジャッキー” は、他の霊媒師達と働き方が少し違う。
一般の霊媒師は、依頼が入れば直接現場に出向くけど、ジャッキは出向かない。
現場に出るのはジャッキの代わりの依り代フィギュア(あらかじめ宅急便で送っておくんだって)。
ジャッキは自宅のリビングで、フィギュアに憑依し遠隔で操作する。
そのフィギュアが手足となって、ジャッキの代わりにアチコチ動き回るんだ。
だから基本的にはいつだって在宅勤務。
仕事とは言え同じ家にいるからね、大丈夫、淋しくないよ。
ジャマしないで大人しく待ってるからね。
ジャッキが仕事をしている間、ウチは暇を持て余していた。
ユーレーだから現世の物質にさわれない。
それはけっこう不便なコトで、テレビもパソコンもつけられないし、読書も料理も何一つ出来ないの。
『ヒマだなー、何にもするコトがないよ。こんな事になるんなら、黄泉から本でも持ってくれば良かった。次来る時はアガサクリスティーの新刊でも持ってこないと、…………あ、』
ウチ……なに言ってるんだろ。
次なんてきっとない、あったとしてもいつになるか分からない。
そう何度も大倉に甘える訳にはいかないもの。
大倉と言えば……昨日ジャッキは霊力を使ってあの子の様子を視てくれた(勝手に視てゴメンだけど、だって電話に出ないんだもの、ずっと電源落してるんだ)。
とりあえず倒れてはいなかったらしく、ホッと胸を撫でたんだ。
ジャッキはさ、あの子を視たあと少しだけ俯いて、少しだけ黙ってた。
フラットを装ってたけど、ジャッキの放つ空気がね、ほんの微かに変わったの。
その時に思ったんだ。
きっと忘れてない、ジャッキは大倉のコト、まだ想ってるんだろうなって。
不思議と腹は立たなかった。
やっぱりそうだよな、って……冷静に受け止めた。
だって、だってさ、それは知ってたコトだもの。
ウチと大倉、2人を同時に好きになって、だけど、どちらか1人を選べない、だったら自分が消える以外に道はない、と、そう考えて自分自身を消そうとしたの。
勿論、それを知ったウチと大倉はジャッキを止めた。
ジャッキが消えるのもイヤだったけど、そのやり方では本当の解決にはならないから。
ジャッキも本当は分かってたんだと思う。
分かった上で、他に方法が視つからなくて、だから頑固に気持ちを変えてくれなくて……それでウチ、とうとう我慢が出来ず大声で泣いたんだ。
泣いて泣いて、ウチを独りにしないでって縋ったの。
なりふりなんて構ってられない、引き留めたくて、繋ぎとめたくて必死だった。
ジャッキはさ、そんなウチを視て、ようやく気持ちを変えたんだ。
ウチがあまりに頼りなくって、視捨てられない、放っておけない、そう感じて、……それでとうとう、ジャッキは1人を選んだの、……そう、ウチを選んだんだ。
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