第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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次の日の朝。 『マジョ、ごめんな。今日は仕事が入ってるんだ。なるべく早く終わらすから待っててくれる?』 ジャッキはウチにそう言うと、早朝からリビングに籠った。 ”霊媒師ジャッキー” は、他の霊媒師達と働き方が少し違う。 一般の霊媒師は、依頼が入れば直接現場に出向くけど、ジャッキは出向かない。 現場に出るのはジャッキの代わりの依り代フィギュア(あらかじめ宅急便で送っておくんだって)。 ジャッキは自宅のリビングで、フィギュアに憑依し遠隔で操作する。 そのフィギュアが手足となって、ジャッキの代わりにアチコチ動き回るんだ。 だから基本的にはいつだって在宅勤務。 仕事とは言え同じ家にいるからね、大丈夫、淋しくないよ。 ジャマしないで大人しく待ってるからね。 ジャッキが仕事をしている間、ウチは暇を持て余していた。 ユーレーだから現世の物質にさわれない。 それはけっこう不便なコトで、テレビもパソコンもつけられないし、読書も料理も何一つ出来ないの。 『ヒマだなー、何にもするコトがないよ。こんな事になるんなら、黄泉から本でも持ってくれば良かった。次来る時はアガサクリスティーの新刊(・・)でも持ってこないと、…………あ、』 ウチ……なに言ってるんだろ。 次なんてきっとない、あったとしてもいつになるか分からない。 そう何度も大倉に甘える訳にはいかないもの。 大倉と言えば……昨日ジャッキは霊力(ちから)を使ってあの子の様子を視てくれた(勝手に視てゴメンだけど、だって電話に出ないんだもの、ずっと電源落してるんだ)。 とりあえず倒れてはいなかったらしく、ホッと胸を撫でたんだ。 ジャッキはさ、あの子を視たあと少しだけ俯いて、少しだけ黙ってた。 フラットを装ってたけど、ジャッキの放つ空気がね、ほんの微かに変わったの。 その時に思ったんだ。 きっと忘れてない、ジャッキは大倉のコト、まだ想ってるんだろうなって。 不思議と腹は立たなかった。 やっぱりそうだよな、って……冷静に受け止めた。 だって、だってさ、それは知ってたコトだもの。 ウチと大倉、2人を同時に好きになって、だけど、どちらか1人を選べない、だったら自分が消える以外に道はない、と、そう考えて自分自身を消そうとしたの。 勿論、それを知ったウチと大倉はジャッキを止めた。 ジャッキが消えるのもイヤだったけど、そのやり方では本当の解決にはならないから。 ジャッキも本当は分かってたんだと思う。 分かった上で、他に方法が視つからなくて、だから頑固に気持ちを変えてくれなくて……それでウチ、とうとう我慢が出来ず大声で泣いたんだ。 泣いて泣いて、ウチを独りにしないでって縋ったの。 なりふりなんて構ってられない、引き留めたくて、繋ぎとめたくて必死だった。 ジャッキはさ、そんなウチを視て、ようやく気持ちを変えたんだ。 ウチがあまりに頼りなくって、視捨てられない、放っておけない、そう感じて、……それでとうとう、ジャッキは1人を選んだの、……そう、ウチを選んだんだ。
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