第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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◆ 『現世でそんな事があったのね、』 ここまで聞いた白雪ちゃんが、息を吐きつつそう言った。 『うん、最初に言い出したのはウチなんだ。あの子が助けてくれなかったら今頃ウチはいない、だから大倉を独りに出来ないって。そりゃあ悩んだよ。でもね、大倉の半べそ顔が頭から離れなすぎで、ジャッキといて楽しいはずなのに、いつもずっと浮かんでくるの。やんなっちゃう、またおまえかーってなるくらい』 大袈裟に肩をすくめてそう言うと、 『それは結構くるわね(・・・・)』 と、白雪ちゃんは眉毛を下げた。 『でしょ。それで思ったんだ。こんなに気になるくらいなら、もういっそ一緒にいた方が良いんじゃないかって。ジャッキは最初、そんな事は無理だと言ったの。うまくいきっこない、マジョも弥生も辛くなるって。でもさ、一緒にいなくてもこんなに気になっちゃうんだよ? 忘れようにも顔が勝手に浮かんでくるからどうにもならない。こんなモヤモヤが1000年続くなんてヤダもん。うまくいくかいかないかは、やってみなくちゃ分からないし、途中でダメだと思ったら、その時また考えるって言ったんだ』 『あら、その行き当たりばったりな感じ、なんだかバラカスに似てるわね』 『えぇ、そうかなぁ? ウチ、あそこまでテキトーじゃないと思うけど……ま、親子だからね、ちょっぴり似ちゃったのかもしれないな。 それでね、ジャッキがああ言ったのはウチと大倉を想っての事。旦那さん1人に奥さんが2人だなんて普通は、……あ、チガウな、今の言い方は無し。今の地球では(・・・・・・)、一般的じゃないからね』 そうなのだ。 一夫多妻をはじめとした複数での家族構成。 これは黄泉では珍しくもなんともない。 命を持たない黄泉の国の住人達は、広い宇宙に数多存在する……いわゆる宇宙人達の集まりだ。 バンブー星のバラカス、コナモノ星のタッキー、ダーマン星のフェアリーゴッドマザー……他にもいっぱい、もちろん地球出身のウチと白雪ちゃんも宇宙人だ。 星の数だけ異なる文化と風習がある。 【光道開通部(こうどうかいつうぶ)】のオペレーターは各星の文化、さらに言えばもっと細かく各種族の文化を、何年もかけてすべて覚えるんだ。 亡くなって黄泉に来て、最初に接触するオペレーターが何も知らないとあっては信頼を得られないし、不安にもさせてしまう。 苦労して覚えた各星の文化では、地球の常識は宇宙の常識……とはいかない事が多々あった。 そのうちのひとつが結婚についてだ。 一口に家族と言っても色々あって、一夫多妻、一妻多夫……って、これはまだシンプルな方。 中には、結婚したら2人の霊体(からだ)を融合させて1体化、1つの霊体(からだ)に2人の人格を共存させる、という星もある(これが1番驚いた)。 星が違えば、文化が違えば、結婚のスタイルはこんなにも変わるのだ。 『ウチがもし生者でさ、黄泉で暮らしてなかったら、こういう決断はしなかったと思う。だけど黄泉で色んな形の家族を視てきたからねぇ。家族の構成とか、年齢とか性別とか、そういうの関係なしに幸せに暮らしてる霊達(ひとたち)をいっぱい知ってるから……』 ウチがしみじみそう呟くと、白雪ちゃんも一緒になって呟いたんだ。 『そうねぇ、私だってまさか、バンブー星のパンダと付き合う事になるなんて夢にも思わなかったわ。でも今、とっても幸せよ』
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