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『現世でそんな事があったのね、』
ここまで聞いた白雪ちゃんが、息を吐きつつそう言った。
『うん、最初に言い出したのはウチなんだ。あの子が助けてくれなかったら今頃ウチはいない、だから大倉を独りに出来ないって。そりゃあ悩んだよ。でもね、大倉の半べそ顔が頭から離れなすぎで、ジャッキといて楽しいはずなのに、いつもずっと浮かんでくるの。やんなっちゃう、またおまえかーってなるくらい』
大袈裟に肩をすくめてそう言うと、
『それは結構くるわね』
と、白雪ちゃんは眉毛を下げた。
『でしょ。それで思ったんだ。こんなに気になるくらいなら、もういっそ一緒にいた方が良いんじゃないかって。ジャッキは最初、そんな事は無理だと言ったの。うまくいきっこない、マジョも弥生も辛くなるって。でもさ、一緒にいなくてもこんなに気になっちゃうんだよ? 忘れようにも顔が勝手に浮かんでくるからどうにもならない。こんなモヤモヤが1000年続くなんてヤダもん。うまくいくかいかないかは、やってみなくちゃ分からないし、途中でダメだと思ったら、その時また考えるって言ったんだ』
『あら、その行き当たりばったりな感じ、なんだかバラカスに似てるわね』
『えぇ、そうかなぁ? ウチ、あそこまでテキトーじゃないと思うけど……ま、親子だからね、ちょっぴり似ちゃったのかもしれないな。
それでね、ジャッキがああ言ったのはウチと大倉を想っての事。旦那さん1人に奥さんが2人だなんて普通は、……あ、チガウな、今の言い方は無し。今の地球では、一般的じゃないからね』
そうなのだ。
一夫多妻をはじめとした複数での家族構成。
これは黄泉では珍しくもなんともない。
命を持たない黄泉の国の住人達は、広い宇宙に数多存在する……いわゆる宇宙人達の集まりだ。
バンブー星のバラカス、コナモノ星のタッキー、ダーマン星のフェアリーゴッドマザー……他にもいっぱい、もちろん地球出身のウチと白雪ちゃんも宇宙人だ。
星の数だけ異なる文化と風習がある。
【光道開通部】のオペレーターは各星の文化、さらに言えばもっと細かく各種族の文化を、何年もかけてすべて覚えるんだ。
亡くなって黄泉に来て、最初に接触するオペレーターが何も知らないとあっては信頼を得られないし、不安にもさせてしまう。
苦労して覚えた各星の文化では、地球の常識は宇宙の常識……とはいかない事が多々あった。
そのうちのひとつが結婚についてだ。
一口に家族と言っても色々あって、一夫多妻、一妻多夫……って、これはまだシンプルな方。
中には、結婚したら2人の霊体を融合させて1体化、1つの霊体に2人の人格を共存させる、という星もある(これが1番驚いた)。
星が違えば、文化が違えば、結婚のスタイルはこんなにも変わるのだ。
『ウチがもし生者でさ、黄泉で暮らしてなかったら、こういう決断はしなかったと思う。だけど黄泉で色んな形の家族を視てきたからねぇ。家族の構成とか、年齢とか性別とか、そういうの関係なしに幸せに暮らしてる霊達をいっぱい知ってるから……』
ウチがしみじみそう呟くと、白雪ちゃんも一緒になって呟いたんだ。
『そうねぇ、私だってまさか、バンブー星のパンダと付き合う事になるなんて夢にも思わなかったわ。でも今、とっても幸せよ』
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