第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「ふはぁ……もうヨレヨレだ……でも出社せねば……やっと会社(ここ)まで辿り着いたんだ、あともうチョット、もうひと踏ん張り……頑張れ、僕、」 自分自身を励ましながら、門から敷地に一歩足を踏み入れた……が、すぐになんとも言えないイヤーな気持ちになった。 心の奥がざわつくような、不安の波に呑まれるような、全力でココから逃げたい、そう思わせる嫌な気配。 全身に鳥肌が立つ。 僕の隣の大福なんて『フシャーッ!』と凄んで、ザッザッザッと地面の砂をかいている。 お姫……激しいな。 でもキモチは分かるよ。 僕もこの気(・・・)にあてられてるもん。 出来る事なら一緒に砂をかきたいくらい……なんだけど、これが正解、これで良いのだ。 この強烈な不安感は、会社の敷地に入ると同時に沸き上がる。 ついでに言うなら頭痛に肩こり眩暈に動悸、ありとあらゆる身体の不調に襲われる(敷地から出れば即回復)。 どうしてこんなコトが起こるのか……と言うと、社屋全体に ”生者除けの結界” を張ってるから。 これさえ張れば生者は中に入ってこれない(や、入ろうと思えば入れるけど、何も知らない一般の方は嫌な感じにビビッて帰っちゃう)。 夏の間の繁忙期、社長を含めたウチの社員は全員現場に出ちゃうからね。 そんな中、事務所にユリちゃん1人だなんて物騒にも程があるでしょ。 悪いヤツを近づけない、その為の ”生者除けの結界” なのだ。 もちろん効果は絶大だ。 なんたって結界は、水渦(みうず)さんの ”負の感情” が原材料。 あの圧に勝てる猛者はまずいない、ただし……! あくまでも ”生者除け(・・・・)の結界” だから、悪人も善人も区別はない、どちらも公平に除けるんだ。 ゆえに出社がガチでキツイ。 正確には会社の門から玄関までがヘルロード(地獄の道)と化している。 それでも僕は行かねばならない。 あらゆる不調を堪能しながら、気合で事務所に行くしかないのっ! あ、でもその前に。 僕は目を閉じ両手を合わせ、白い霊力(ちから)をチャージした。 白の霊力(ちから)は癒しの霊力(ちから)。 溜めた霊力(ちから)はケチケチせずに、僕の愛しのスィートハニー、ベリベリキュートな大福姫に(情報が渋滞中)余すことなく全部たっぷりふりかけた。 「大福、癒しの霊力(ちから)で包んだからね。これならココを歩いても辛くないと思うんだ。え? 僕? 僕はいいの。大丈夫だよ。なんたってキミは僕のお姫だからね。守ってあげたいんだ。さぁ、行こう!」
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