第二十二章 霊媒師 岡村英海

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◆ 「おはよーございまーす」 言いながら事務所のドアを開けると、そこには色あせた青いリボンをカチューシャ代わりに髪に飾るユリちゃんがいた。 「岡村さん! 大福ちゃんも一緒だぁ。2人共、おはようございます」 僕と大福を見たユリちゃんは、ぱぁっと明るい笑顔になって、ぺこりと朝のご挨拶。 あぁ…癒されるなぁ。 長い黒髪、赤ちゃんみたいなツルツルほっぺ。 クリーム色のブラウスに、ブラウンのプリーツスカート。 爽やかで可愛らしくて、事務所に来ればいつでも優しく迎えてくれる。 あの水渦(みうず)さんでさえ、ユリちゃんには毒を吐かない。 人に対して ”塩対応” どころか ”タバスコ対応” がデフォルトの水渦(みうず)さんが、あり得ない対応だ(ま、だからといって積極的に絡もうとはしないけどね)。 「朝から暑いですよねぇ。あ、冷たいジャスミンティーでいいですか?」 言いながらユリちゃんは、彼女のデスクのすぐ横にあるミニ冷蔵庫に手をかけた(お嫁さんに甘々の社長がユリちゃん専用冷蔵庫を買ってあげたのだ)。 「うん! 僕ジャスミンティー大好きだよ! 嬉しいなぁ、ありがとうね」 テキパキと2人分のお茶を淹れ、そして大福にはお水を用意してくれるユリちゃん……やだ優しい、めちゃ良い子。 とりあえず一服。 自分のデスクによいしょと座り、冷たいジャスミンティーをいただいた。 「(ごくごくごく)あぁ……冷たくておいしい。この香り、この喉越し、五臓六腑に染みわたるなぁ」 「あはは、五臓六腑って。岡村さん、まるでお酒を飲んでるみたい」 「いやぁ、僕はお酒は飲めないけどさ、暑い日に冷たいハーブティー。これってお酒の好きな人がビールを飲むのと同じなじゃないかと思うんだ」 「確かに。”この一杯の為に頑張ったんだー!” って感じですよねぇ」 「「ねー!」」+『なーん!』 キャッキャウフフとお茶の話をしているうちに、ほんのり元気になってきた。 ジャスミンティーとユリちゃんが、疲れた僕を癒してくれたの。 くぅ……社長めぇ……こんな良い子をお嫁さんにするとは……! よし、憎たらしいからうんと幸せになる呪いをかけておこう。 それはそうと。 「外の結界、良く効いてるみたいだね。会社に着いてあまりにの禍々しさに引いたけど、これなら一般人は入ってこない。社内(なか)に入れば嫌な感じもしないし安心だ」 ホント、外で感じた嫌悪感がウソみたい。 社内(なか)はいつもと変わらず、いたって普通の事務所内。 ”生者除けの結界” の中心地は台風の目と一緒。 中に入れば安心安全、外部から人は来ず。 ゆえに、この結界は現場で使うアイテムなのよね。 霊媒師が悪霊達とドンパチする時、一般人を巻き込む訳にはいかないもの。 僕も前に使ったコトがあるけど、やっぱり効果は絶大だった。
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