第二十二章 霊媒師 岡村英海

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…… ………… 依頼者宅の最寄り駅に着いた僕は、迷う事無く歩き出す。 時刻は正午、ちょうどお腹が空いてきた頃だ。 テクテクと歩く事20分。 僕の肩には大福が乗っかって、夏の暑さも幽体ボディが冷やしてくれる。 もうちょっと、あとちょっと、 あの曲がり角を右に行ったら…………着いた。 見上げた現場、依頼者の自宅。 どこにでもある建売住宅だ。 2階建ての茶色い外壁。 玄関のまわりには猫の置物が沢山飾ってある。 「ふぅ……なんだか緊張するな。ピンポンする前に……依頼者に電話するのがマニュアルだったな」 そう思い、ポケットからスマホを取り出し、番号をタップしようとした……その時。 ガチャ、 玄関ドアが静かに開いた。 「あ……、」 間抜けな声を出した僕は、そのまま黙って立ち尽くす。 な、なんて言ったらいいのかな……? 言葉に詰まって、挙動不審になりかけた僕に、ドアから顔を出した女性(ひと)がこう言った。 「あら、やっぱり英海(ひでみ)だったのね! ウチの中できなこ(・・・)が二ャー二ャー騒ぎ出したからもしかして……って思ったのよ。あんた急にどうしたの? 連絡もしないで帰ってくるなんて珍しいわね。まぁいいわ。お腹空いてない? 入りなさい。何かつくってあげるわよ」 僕はたっぷり時間をかけて、深呼吸を1回、2回。 そして、 「母さん、僕…………、ああ、うん。いいや、後で話す。先に何か食べさせて」 言いながら僕の実家の、 いや、依頼者のオウチにお邪魔したのだ。
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