第二十二章 霊媒師 岡村英海

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◆ 「簡単なもので良いわよね? はい、暑いから素麺。野菜いっぱいのせたからぜんぶ食べなさい」 そう言って出してくれたのは、素麺にたっぷりの野菜がのった一皿だ。 サイコロカットのきゅうりにトマト、刻んだ水菜にオクラに冥加、彩りの錦糸卵に、スタミナの茹でた豚肉……で、その上から麵つゆをダクダクかける簡単料理。 この素麺、懐かしいなぁ。 夏になると、週3ペースで出てくるの。 飽きないようにトッピングは変えるけど、とにかく野菜が多いんだ。 「ゴハンありがと。急でごめんね」 言いながら、ホントは急じゃないのよね、アナタに呼ばれて来たのよねと思いつつ、両手を合わせて「いただきます」をした。 とりあえずお腹空いた、話はあとで、まずは素麺食べてから。 リビングのローテーブル。 家族でゴハンを食べる時、家族みんなでお茶を飲む時、集まるのはいつだってこの部屋だ。 母さんはいつもの定位置、僕の向かいにストンと座る。 「足りなかったらおかわりあるからね」 「ありがと(もぐもぐもぐ)」 「毎日暑いわねぇ」 「そうだねぇ(もぐもぐもぐ)」 「ちゃんと食べてる?」 「うん、(もぐもぐもぐ)」 「ちゃんと寝てる?」 「うん、(もぐもぐもぐ)」 我ながら、返事がすこぶる素気ない。 や、でもごめん、悪気はないの。 久しぶりの実家の素麺、これがなんだか懐かしくって、空きっ腹にウマすぎて、ついつい夢中で食べてるだけなの。 食べたらちゃんと話をするから、……てか、しないと。 どこから話そう、どこまで話した? 前の会社が倒産し、再就職をしたのは話した(電話でだけど)。 でも……霊媒師になったとは言えなかったんだよな。 霊媒師は決して悪い仕事じゃない。 僕としては人の役に立つ良い仕事だと思ってる。 ただ、あんまり一般的じゃあないじゃない。 だから言い出しにくかった。 優しいけれど、少々保守的……そんな両親(ふたり)に心配かけたくなかったし、だから ”手に職系の専門職” とザックリぼかして誤魔化したんだ。 いつかキチンと説明しなくちゃ、分かっていたのに先延ばしにしてきたの。 今日は話そう、全部話そう……てか、話さないと仕事にならない。 しかし……なんて言って切り出そうか。 驚かせないようにしなくっちゃ。
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