第二十二章 霊媒師 岡村英海

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「そんなんで足りたの?」 僕が食べるのをずっと見ていた母さんが言った。 足りたの? って、けっこう大盛、充分おなかいっぱいです。 「うん、足りた。ありがとね」 「それなら良かった。そうだ、あんた素麺持って帰りなさいよ。いっぱいあるから後で紙袋に入れてあげる。あと缶詰とかふりかけとか保存がきくものもいるわね。そうそう、こないだトイレットペーパーが安かったからたくさん買ったのよ。それもあげるわ。あとはお米と味噌と醤油と麺つゆと、」 僕に持たせるお土産リストを頭に浮かべて、あれやこれやとブツブツ言ってる母さんに、 「ちょちょ、待って。僕、電車で来たんだ。そんなに持って帰れないよ」 と言ってみる……と。 「あらそう? じゃあ宅急便で送ってあげるわ。大きな箱あったかしら? なかったら貰ってこなくちゃ」 「宅急便か、助かるなぁ。じゃあさ、さっき言ったのぜんぶ送って!」 わぁ、嬉しい。 どれもこれも生活必需品だからね。 買えばけっこうお金がかかるし、買い物だって大変だ。 いただけるなら、こんなに嬉しいコトはない。 実家ってありがたいなぁ。 素麺はおいしかったし来て良かったなぁ(遊びに来たんじゃないけど)。 僕がホクホクしていると、 「分かったわ。それで? 英海は今日なにしに来たの?」 現実に引き戻された。 「何しにって……そりゃあ」 呼ばれたから来たんだよ。 ”霊媒師一丁!” って、昨日依頼したでしょう? 「なによ、歯切れが悪いわね。どうしたのよ、なんかヘンだわ。…………あっ! 分かったー! あんた、転職して間もないからお金がないんでしょ! それでゴハンを食べに来たのね?」 ひらめいた! 的な感じで僕に詰め寄る母さんだったが、ち、違うんだ。 「そういう事ならいくらでも食べさせてあげる。今夜泊っていけるんでしょ? 晩ゴハン何食べたい?」 嬉々として母さんは、僕に食べさす気満々だ(嬉しいけど、食べるけど)。 今夜泊っていくかって? 泊りますとも、……てか、仕事が完結するまで帰れませんから。
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