第二十二章 霊媒師 岡村英海

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『くはぁぁぁぁ…………』 伸びをしてから、大きなお口であくびをひとつ。 その後はいつものルーティン、ぽっちゃぽちゃのゴージャスボディを全身くまなく毛繕い。 起きてすぐにお手入れ……さすがはお姫、オシャレ黒帯だ。 大福が起きる少し前。 実家に着いて早々、猫又は家の中をウロウロ歩き、そこいらじゅうの臭いを嗅ぎまわっていた。 実家に来たのは初めてだし、それにココには岡村家のスーパーアイドル、茶トラのきなこ(女の子、12才)がいる。 どこもかしこも知らない匂いでいっぱいだから、気になって仕方がなかったのだろう。 あっちでスンスン、こっちでスンスンと忙しかったのだが、一通りの大福チェックが終わると、ようやく僕の隣でぷーぷーと眠りだしたのだ。 それが今、お目覚めになられた大福は『うなぁん』と可愛く一声鳴くと、ピョンッとテーブルに飛び乗った。 そしてそのままトコトコ歩き、母さんの目の前でピタリと止まると、首を傾げて覗き込む……えっと……大福さん? どうしたのかな? かな? …… ………… 「似てないコトもないんじゃない? 思い出したんだけど、うちのプリンターのコピー用紙、英海の前の会社からネットで注文したコトがあったわよ? やっぱり通信販売の会社じゃない」 え? あぁ母さん、まだその話してたの? 僕が ”似てない” って言ったからムキになっちゃったんだ。 この人けっこう負けず嫌いだからねぇ……って、そんなコトよりナニこの状況。 霊感のレの字も無い母さんは、すぐ目の前に猫又がいるとも知らずに、”通販通販” 騒いでる。 その猫又は母さんの顔をまじまじ視たと思ったら、今度は振り向き僕の顔をジッと視る。 お得な三尾を高速フリフリさせながら、交互に何度も僕らを視たあと力強くこう鳴いた。 『うなんっ! うななな!』→訳:スゴイ! そっくり! 可愛いおめめをキラキラさせて、”うななな、うななな(そっくり、そっくり)” 大騒ぎ。 や、ま、そりゃそうだ、親子だからねぇ。 しかも僕は母さん似、自分でもよく似てるなぁって思うよ。 「コピー用紙って重たいから通販が良いのよね。英海の会社が倒産しなければ続けて買ったのに」 ぼやきの主の鼻先を、お姫がスンスン嗅いでいる。 自分から嗅ぎにいったってコトは……どうやら母さんのコトが気に入ったみたいだ。 嬉しいなぁ。 大好きな猫又が僕の家族を好いてくれる。 ああ……母さんにも大福が視えたら良かったのに。 ウチの家族は大の猫好きだ。 僕もたいがい相当だけど、両親(ふたり)の猫愛は僕のさらに上を行く。 猫の為ならどんな努力も、どんな労力も惜しまない。 猫が絡めば白い物が黒どころか七色に変わる、根っからの下僕体質なのだ。
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