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未練がましくお母さんのエプロンを握りしめ、腰をかがめて隠れ続けるお父さんに、もはや欠片の威厳も残ってない。
どうしたもんか……なんて思っていたその時、
ブン、と低い起動音がした。
その直後、
「ったく! だらしねぇぞ真のジジィ! コラ!」
女性の前だというのに、すこぶる下品でドスの効いた声が響いた。
続いて、お母さんの後ろで縮こまっていたお父さんが、弧を描くように吹っ飛び、田所さんの足元に転がった、が、しかし、70才とは思えない背筋力とゴツ太い首の力で跳ね起きたお父さんは、懸命に自身の尻をさすりながら怒声を上げた。
『イッテェだろうがぁ!! なにすんだクソ誠!!』
さっきのブンといった起動音。
右脚だけにソウルアーマーを装備した社長が、お父さんの尻を蹴り上げたのだ。
「ジジィがガラにもなくビビッてるからよ、俺が手伝ってやったんだ! 感謝されても文句言われる筋合いはねぇ!」
『だーーーー!! 俺はビビッてなんかいねぇ!! ただ、ちょっと心の、』
「ハイハイ!心の準備OK!! ジジィが逢いたくてたまらねぇって言ってた大事な娘さんなんだろーが!! それともナニか? 本当はたいして大事でもねぇのか? ああ?」
『なんだと!? 冗談でも言っていい事と悪い事があんだろ! 俺がどんなに貴子が大事で貴子を愛してるか、テメェなんざにわかる訳ねぇわっ!! バーカ! バーカ!』
「けっ! ソレ、俺にじゃなくて貴子さんに言えや、ボケっ!!」
社長の言葉使いは乱暴だが、そこまで言うとニヤリと笑いながらスッと後ろに下がった。
190cm越えの巨体の裏から現れたのは、口元に手をやり涙を流す、大事な大事な一人娘、貴子さんの姿だった。
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