第二十二章 霊媒師 岡村英海

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僕を顔を黙ったまんま、ジッと見つめる母さんは、冷めたミントティーを煽るように飲み干した。 そして、 「…………あのね、おかしな事を言うようだけど……この家……私とお父さん以外に……誰かいるのよ、」 躊躇いがちにこう言ったのだ。 えっと…… 誰かいる……の?  誰が……いるの? 今度は僕が黙り込む。 同時、今の言葉がキッカケとなり、頭の中にパズルのピースがゆっくりと降り出した。 きなこ……12才……お婆ちゃん猫……謎の絶叫&弾丸走り……両親(ふたり)しかいないはずの実家……そこで感じる別の誰かの気配……気配の主は生者?……たとえばドロボー……いや……そういう気配なら(・・・・・・・・)警察を呼ぶはずだ……なのに呼んだのは霊媒師………… 少しずつ、パズルのピースがはまってく。 そういう事なんだろうな。 ユリちゃんが渡してくれたタブレット。 依頼内容を確認した時、”ポ現” の文字があったもの。 「母さん、 その ”誰か” を視た事はあるの?」 両親(ふたり)には霊感がない。 だからきっと気配だけで視た事はないのだろう、だけど一応聞いてみる。 「……見た事はないわ、でもね、気のせいじゃない。確かに気配がするのよ。それに気付いたのは少し前。暴れるきなこが心配で、様子を見てたら音が聞こえたの」 「足音……」 「そう、あれは絶対足音よ。擦って歩く音だったり、階段を上がってるのかギシギシいう音だったり……それとリビングにいた時、2階(うえ)からドアを開ける音も聞こえた。あと、テーブルの上に置いてたリモコン各種が勝手に落ちた事もあったわね」 言い終えてため息をつく母さんと目が合った。 僕もつられてため息をつく。 「そう……なんだか気持ち悪いね」 霊媒師にあるまじきではあるけれど、想像したら鳥肌が立った。 そりゃそうだろ。 普段は温和なお婆ちゃん猫、きなこの謎の荒ぶりだけでも不安になるのに、夜中にそんな音が聞こえてきたら……不気味に思うでしょうよ。 母さん、きっと怖かっただろうな。 「英海、私の話……信じてくれる?」 そう言って、母さんは僕を不安げに見た。 信じるかって? 信じるよ、当たり前じゃないか。 だってさ、僕はあなたの息子だし、 それにさ、言ってはないけど霊媒師なのだから。
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