第二十二章 霊媒師 岡村英海

15/159
前へ
/2550ページ
次へ
「もちろん信じるよ」 僕がそう答えると、安心したのか母さんは、深く長く息を吐いた。 「そう、良かった……この話をお父さんにした時、最初は信じてもらえなかったの。ほら、お父さんって一度寝ると朝までグッスリ、何したって起きない人でしょ。だから足音に気が付かなくてね」 僕は話を聞きながら、2人のカップにお茶のおかわりを淹れた。 こんな話をしてるんだもの。 ミントの香りで気持ちを落ち着けたいじゃない。 「私だって最初は気のせいだろうと思ったわ。きなこに付き合って寝不足だから、きっと疲れてるんだろうって。でもね、違うの。次の日も、また次の日も聞こえるのよ。毎日毎日聞こえてきたんじゃ、さすがに気のせいと思えない、それに……」 そこで一旦言葉を止めて、母さんは僕の淹れたミントティーをグィグィと飲み干した。 やだ……! またまた良いの飲みっぷり! ……って、これ相当動揺してるな。 いつもならこんな飲み方しないもの。 ハーブの香りを楽しむでも無く、乾いた喉を潤す為だけ、作業のように流し込んでる。 「きなこがおかしくなるのは、決まってその気配がしてから。偶然じゃないわ……変な気配がし始めて、きなこがそれに気が付いて、耳をぴくぴくさせながら空中をジッと見て、それでそのあと……絶叫するの、まるでそこに……誰かがいるみたいにね」 母さんの声は震えていた。 気味の悪い出来事と、それに加えてきなこの事もある。 不安で仕方がないのだろうな。 そういう事情だったんだ……得体の知れない謎の気配、それをどうにかしたくって、両親(ふたり)は霊媒師を呼んだんだ。 …………今すぐ言おう。 僕が呼ばれた霊媒師なのだと。 当然驚くだろうし、たぶん色々ウルサク言われる。 それを思うと気が重いけど、だけど、それでも、安心させてあげたいよ。 僕が来たからもう大丈夫だと言ってあげたいんだ。 「母さん、」 「英海、」 あ……被っちゃったよ。 僕と母さん、2人は同時に声を出し、そして同時に「お先にどうぞ」と譲り合う……が、やっぱりココはレディーファースト、母さんから話してもらうコトにした。 「目に見えないけど気配がする、……これが本当に気持ち悪い。気にもなるし、いい年して夜中のトイレが怖いのよ。だけどね、それより何より一番気になるのはきなこへの影響よ。少なくともあと20年は元気に長生きしてほしいのに、あの気配のせいでマイスィートはストレスを溜めてる。絶叫して走り回るなんて身体の負担が心配だわ……私のきなこ……世界で一番可愛いきなこにナニしてくれてんの! そう思ったらね、腹が立って腹が立って……!」 あ、あれ……? な、なんだか様子がおかしいぞ。 声、震えてないし、力強くなっちゃってるし……えぇ? 「幽霊だか妖怪だか超常現象だか知らないけどね、勝手に人の家に来て、愛しのきなこにストレスかけるヤツは成敗よ! 当然お父さんも同意見! で、ネットで検索して調べたの! こういう時はレーバイシ? とかいう人に頼めば良いんだって!」 母さんは拳を握って興奮状態、……や、え、まぁ、霊的に困った時は霊媒師、ってのは方法として合ってるけどさ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2365人が本棚に入れています
本棚に追加