第二十二章 霊媒師 岡村英海

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父さんは、箸を置いて僕の顔をジッと見る。 そして小さく「んー」と唸って、それでそのあと、だしぬけにこう言った。 「お父さんね、おくりびさんをインターネットで見つけたの」 「あ……うん、そうなんだ」 母さんも言ってたっけ。 まぁ、そうだよね。 霊媒師の依頼なんて、ツテでも無ければそれくらいしか調べる術はないもの。 「家の中で何かが起きてる。そのせいで母さんもきなこも怯えてる。なんとかしなくちゃいけないけど、どうしていいか分からない。それで検索したんだ。検索ワードは【足音】【家の中】【誰もいない】【どうすれば?】。これで延々調べていくうち、巡り巡っておくりびさんに辿り着いたの」 さすがは親子。 岡村大海(ひろみ)、検索大好き56才。 調べものはネットで検索、なんでもかんでもすぐ検索。 しつこいくらいのワードの入れ方、僕とまったくおんなじだ。 「正直、最初は怪しい会社じゃないかと疑ってた。お祓いなんてお寺か神社に頼んだ方が安心出来るとも思ったし。でもねぇ、よくは分からないけど……なんだかすごく気になってねぇ。だから思いきって、相談メールをしてみたの。返答はすぐに来たよ。とっても丁寧で親切で、お金の事も曖昧じゃなくハッキリ明確に書いてあった。それを読んだ時、この会社なら信用できるかもしれないって思った。それで依頼したんだ」 ユリちゃーーーん! それユリちゃんだ! 依頼者からのメール対応、それはすべて事務担当の仕事だもの! さすがはユリちゃん、デスクワークに依頼者応対、それに加えて結界まで張っちゃうパーフェクト事務エンジェル!(あ、キーマンさんが移ってるわ) 父さんの表情は柔らかく、頭ごなしに反対する空気はない。 この流れ、いいぞ……! 「あとね、おくりびさんの口コミレビューも感謝の言葉が多かった。どの霊媒師さんも親身になってくれるって評判だったよ。だからね、英海(ひで)が霊媒師になったと聞いて驚いたけど、おくりびさんで働いてるなら…………ま、心配ではあるけれど、少しは……ねぇ。話を聞いてみたいなぁって」 そこまで話すと母さんに向き直り、「英海(ひで)に話を聞いてみようよ」と言ってくれたのだ!(父さんありがとー!) んもー! なんでも聞いて! なんでもぜんぶ話すから! 父さんにそこまで言われた母さんは、渋々ながらに頷いた。 ココから始まる質問タイムに僕の気合いは充分だ。 さぁぁ、カモン!  「まぁ……お父さんの言う通り、おくりびさんの対応が良かったのは確かだわ。会社としてはキチンとしてるのかもしれない。……でもね、やっぱり心配よ。霊媒師の仕事って一体どんな感じなの? こうやって依頼が入れば知らない家に行くんでしょう? それって大丈夫なの? あと幽霊。私には見えないからもっと分からないけど、危険じゃないの? どうなの?」 おっふ、いきなりその質問から来たか。 ああ、うん、危険じゃないかって? そうねぇ………………僕の頭に中にはこれまでの現場のシーンが(生きてるけど)走馬灯のように浮かんでいた。 そうだ……そうだった。 神奈川の黒十字様の現場では24人のオタク幽霊、ピンクバンダー氏から蹴りを入れられそうになったな(水渦(みうず)さんが助けてくれたけど)。 それからマジョリカさんを口寄せした時は、100体以上の悪霊達とガチで戦ったんだ(しかも弥生さんと2人だけで)。 あとはそうそうテディベアのルミちゃんもすごかった((らん)さんが助けてくれた)。 んでもってW県の修行の時は、瀬山さんのパパン、(おさ)に魂を喰われそうになったしぃ(みんなが助けてくれたけどね!) 色々あったなぁ……てへ! でもダイジョウブ、心配しないで! どれもこれも大したコトじゃないからさ! なんて……絶対言えないや。
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