第二十二章 霊媒師 岡村英海

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ギシィ……ツ、ギシ……ギシ……ギシィ……   瞬間、鳥肌が立った。 今……変な音がしてるよね……? ギシギシと床が軋むような……それはリビングの向こう側から聞こえてくる。 大きな音だ。 間仕切り扉は閉まっているのに、すぐ傍で聞こえるような大音量。 もしかして……これがそうなのか? 両親(ふたり)が言ってた謎の音、姿の視えない得体の知れない音……だというのか? テーブルを挟んで。 そこに座る父さん達は、霊媒師の仕事についてあれやこれやと話してる。 「それにしても英海に霊感があったなんてねぇ。お父さん知ってた?」 「ううん、知らなかった。ビックリしちゃったよ」 なんて感じにキャッキャウフフと話してるんだ(2人は普段から仲が良いしね)。 しかしこの音、2人は聞こえてないのかな? ウソだろ? こんなに大きな音なのに? ギシィ……ギシィ……ズズ……ガンッ! ズズズズズ……ギシ…… ズズ……ギシィ……ガンッ! ズズズ……ギシィ……ガンッ! 軋む音、重たい何かを引きずる音、その合間には壁を叩くような音。 それらの音が僕の耳から頭の中に入り込み、グワングワンと大きく揺らす。 キ……キモチワルイ……三半規管がやられたような不快感。 粘度高めな汗が出る、口の中が乾いてくる。 その時、隣で寝ていたお姫が起きた。 いつものルーチン。 寝起きの毛繕いもしないまま、その艶の毛を逆立たせ、お得な三尾を激しく左右に揺らしてる。 大福が臨戦態勢だ、……嫌な予感が炸裂するよ。 音はさらに大きくなって、ここまで大きくなっちゃうと、どこから聞こえてきてるのかが分からなくなる。 だがここで両親(ふたり)に変化があった。 仲良くおしゃべりしてたのに、言葉が途切れて眉根を寄せる。 そして言った。 「…………今……音がしたわよね? 足音というか……何かを引きずってるというか……壁を叩いてるというか……」 怯えたような戸惑うような、母さんの声は微かに震えていた。 続けて父さんも口を開く。 「……ああ、聞こえた。今夜はいつもより早いな……英海(ひで)、今の、聞こえた? 廊下の方から音がしたでしょ。分かりにくいかな……よく耳を澄ましてみて、そうすれば聞こえるはずだよ。気のせいなんかじゃない、家の中に誰かいる……今はうんと小さな音だけど(・・・・・・・・・・・・)、これがだんだん大きくなるの。そうするときなこが暴れ出すんだよ」 え……? ”うんと小さな音(・・・・・・・)” だって……? や、ちょ……なに言ってるの? こんなに大きな音じゃない、まるでココは工事現場だ。 骨まで揺らす大音量、なのに小さな音だと言うの? それってどういう…………あ、 ____いいか、エイミー。 ____個々の持つ霊力(ちから)の大きさによって、 ____同じ霊でも視え方が違う、 入社したての座学の時、社長が教えてくれた事。 そうか……それと同じだ。 僕と両親(ふたり)、同じ音でも聞こえ方が違うんだ。
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