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『貴子……』
お父さんは一言、娘の名前を口にして、それきり黙り込んでしまった。
それにつられてしまったのか、田所さんも横を向き目を伏せている。
目元に透明なビーズを散りばめて見えるのは、長いまつ毛に留まる涙のせいなのかもしれない。
父娘を中心に続く長い沈黙。
この時ばかりは社長もおとなしい。
ふと見れば、お父さんの背中が小刻みに揺れている。
____男は背中で語る、なんて定型文のような文句を聞いた事があるけど、今まさに、その大きな背中から、戸惑い、喜び、躊躇、懺悔……あらゆる感情が噴き出しているように見えた。
『お父さん……』
先に声を発したのは田所さんだった。
『なんだ!?』
娘の声にお父さんはバネ仕掛けのように飛び上がった。
そして拳を握り、娘の目線に合わせるかのように中腰になった。
『お父さん……私……』
『おぅ』
『……私……わた……し……私……』
田所さんはなんとか言葉を繋げようと必死になっている、が、嗚咽が邪魔をして続ける事ができない。
お父さんはそんな娘を前に、目を真っ赤にしながら続く言葉を待っていた。
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