第二十二章 霊媒師 岡村英海

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そう言って、ニッコリ笑って僕の肩から父さんの手を離した。 そう、大丈夫だ。 実家(ウチ)で起きてる現象、それはただのポ現だもの。 確かに音はウルサイけど、まだ霊の姿は視てないけど、それだって大した問題じゃない。 怖くないよ、本当にね。 だってさ、ココよりもっとヘビーな現場もあったんだ。 100体以上の悪霊達と戦ったり、巨大なテディベアにも襲われた。 それから(おさ)、瀬山さんのパパンとかマジで洒落になんないから。 アレらに比べりゃポ現くらいは余裕っす! 「じゃあ、僕が帰ってくるまでリビングから出ないでね、」 ドアに手をかけ振り向きざまにそう言うと、両親(ふたり)と1匹、コクコクと頷いた。 さてと、じゃあ行きますか。 大福と目を合わせてから前を向き、ドアノブを捻る。 ____ガチャ、 ドアを開け、見慣れた廊下が視界に入ったその瞬間、 「なんだこりゃーーー!?」 脊髄反射で叫んでしまった! アイター! 久しぶりにやっちまったよ! 霊媒師が依頼者の前で叫ぶとかマジでダメじゃーん! 案の定、父さん達は僕の叫びに動揺しちゃって、ガクブルしながら一斉に喋り出す。 「なに!? どうしたの!? 英海ダイジョウブ!?」 「英海(ひで)! どうした! 危なかったら戻ってきなさい!」 「ふんぎゃーーーっ!」 こりゃイカン、すこぶるパニックどうにかしないと。 僕はマッハで振り返り、これでもかと目一杯口角を上げた。 「な、なーんちゃってー! 今のは冗談! 2人をビックリさせようと思ったの。ごめんね、怖かった?」 冗談だったと笑って言えば、両親(ふたり)は一応信じてくれた(ただし、かなりブーブー言われたけどね)。 …… ………… 「じゃあ今度こそ視てくるから、」 へなっと笑って手を振って、“ちょっとコンビニ行ってくる” 、そんなラフさで廊下に出る……と。 あー、うん。 やっぱりいるわ。 視間違いじゃなかったよ。 僕は、“はぁぁ”と深いため息をつき、ジワッと汗を滲ませた。 同時、頭の中に先代の言葉が蘇る。 ____どんな現場でも驚かないで、 ____怯まないで頑張ってきてね、 ____岡村君はもう新人じゃない、 ____立派なプロの霊媒師だ、ファイトー! そうだ、僕はもう新人じゃない。 どんな現場でもベストを尽くすんだ。 とりあえず……腕を後ろに、リビングドアをしっかりと閉めた。
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